
乾燥した季節になると気になるのが「静電気」です。ドアノブを回そうとすると急にバチッと静電気が走りちょっとびっくりします。あの静電気が大の苦手という方も多いでしょう。
あのバチバチはなぜ起こるのでしょうか。
中学校の理科で教わったことがあるような気がしますが、その復習も兼ねて今回は”バチッと起こる静電気”の仕組みについて見てみましょう。
目次 ・電子の移動で起こるイオン化(電離)と静電気 ・【帯電列】物体同士が電子を奪い合う ・”バチッ”とくる静電気の仕組み ・静電気を抑えるための服を選び、植物に触れる
電子の移動で起こるイオン化(電離)と静電気

そもそも静電気とは何か。
私たちの身の回りの物体は全て原子の集合体です。
その「原子」とは「陽子」と「中性子」からなる「原子核」と、その周りを飛び回る「電子」によって構成されています。(飛び回るという表現も厳密には正しくありませんがここではそれで良しとしておきましょう。)

図で示したのは中学校の理科で教わるのは「ボーアのモデル」と高校の化学でちょっぴり教わる「電子雲モデル」です。「電子雲モデル」の方は高校教育以降で触れていくことになる量子力学的な解釈が含まれるので、ここは一旦わかりやすい「ボーアのモデル」を用いて説明していきます。
原子は基本的に原子核内の「陽子(+)」の数と「電子(−)」の数が釣り合っており、その状態の原子のことを「電気的に中性」と言います。
電子はK殻、L殻、M殻、N殻と多層構造の軌道を描くように収容されるようになっており原子核内の「陽子」の数によって引き付ける「電子」の数が異なります。

特に最外殻に位置する電子を「価電子」と言い、原子同士の化学結合などにも大きな役割を果たし、価電子を複数の原子が共有することで結合するものを「共有結合」と言います。と、化学結合や価電子の話を詳しくしだすと話が逸れるので先に進みましょう。
この最外殻に位置する「価電子」は、共有されることもさる事ながら、他の物質などから奪われたり奪ったりすることがあります。
するとどうでしょう、本来であれば原子核内の「陽子の数」と「電子の数」は同じ数であり電気的に中性であるのですが、「電子」を奪われた原子の方は陽子の数の方が多くなることで「+」の電荷を帯び、電子を奪った側の原子は「−」の電荷を帯びることになります。この現象を「イオン化(電離)」と言い、この時「+」の電荷を帯びたものを「陽イオン」、「−」の電荷を帯びたものを「陰イオン」と言います。

そして原子はそれぞれにイオン化した時「+」になりやすいものと「−」になりやすいものはある程度決まっています。またイオン化しにくいものもあります。これは最外殻の価電子の数により決定されるのですが、詳しい話は割愛しましょ。
このように原子が「電子」をやり取りしてプラスになったりマイナスになったりするのが静電気の根本的な起源です。とはいえ、これがイコールでそのまま静電気と呼ばれるわけではありません。
ここまでの「イオン化」は原子、もしくは分子といったミクロな世界でのお話。「静電気」はもっと大きな物体がもっと多くの「電子」をやり取りすることで起こります。
さてさて、原子レベルのミクロな世界で「電子」の奪い合いが起こっている。これが目に見える物体というマクロな世界でも起こります。というかミクロな原子、ないしは分子の「電子」のやり取りが膨大な量になって起こります。
この時に膨大な量の「電子」が移動することで大きな物体が全体として電荷を帯びることを「帯電」と言います。そしてこの帯電したまま動かない電子の状態ことを「静電気」と言うのです。動かない故に「静電気」と言うわけですね。
【帯電列】物体同士が電子を奪い合う

物体はたくさんの「電子」が移動するなりして偏ることで帯電し、その膨大な量の「電子」が移動することで「電気」として物体に蓄えられることになります。
物体と物体をこすり合わせると、ミクロな世界では分子同士が近づくことで「電子」の移動(イオン化)が起こり、大きな一つの物体として「帯電」する。
ではなぜ、セーターや下敷きなどを皮膚や髪の毛で擦ると静電気が発生し、ガラスでは起こりにくいのか。
さまざまな分子の集合体である物体は元を辿れば全て原子なわけですから、それぞれの原子は「イオン化」する性質を持ちます。その時大切なのがそれぞれの原子がイオン化した時に「+」になるか「−」になるかの傾向が決まっているということでした。
すると、物体を構成する分子(ひいては原子)の構成要素によってその物体が「+」に帯電しやすいか「−」に帯電しやすいかが決まります。
ここで登場するのが「帯電列」です。

もしかしたら冬の乾燥してくる時期なんかはもしかしたらニュースやワイドショーなんかで紹介されているかもしれません。(テレビあまり見ないのでわからないですが…)
この帯電列は物体同士を擦り合わせた時に「マイナス」に帯電しやすさと「プラス」に帯電しやすさを順に並べた表です。
小学生の時に髪の毛を下敷きで擦ってふわ〜っと浮いてくる実験をやりましたね。この時の物質を帯電列に倣って見れば下敷きは一般的に多くは「塩化ビニル」で出来ておりとてもマイナスになりやすく、人毛はとてもプラスになりやすいです。
つまるところ、「塩化ビニル」はとても電子を奪いやすく、「人毛」はとても電子を奪われやすいのです。
下敷きで髪の毛を擦った場合、髪の毛側の電子が塩化ビニルである下敷きに奪われ、髪の毛はプラスに帯電し、下敷きはマイナスに帯電します。
すると、「プラス」と「マイナス」の電荷を帯びた物体はまるで磁石のように引きつけ合います。これをクーロン力(静電気力)と言います。また「プラスとプラス」や「マイナスとマイナス」といった場合には互いに反発し合う「斥力(せきりょく)」が生まれ、こちらもクーロン力です。

静電気を持った下敷きと髪の毛はクーロン力で引きつけ合いながら「電子」がゆっくりと元の状態に戻っていくことで次第に静電気がなくなっていきます。
このように「マイナスになりやすい物体」と「プラスになりやすい物体」とを擦り合わせる場合に、帯電列上での”距離”が離れていればいるほど帯電しやすくなります。
そこでなぜガラスでは静電気が起きづらいかを改めて見てみましょう。
ガラスの場合には人毛と同様に「プラスに帯電しやすい」側にいます。しかも帯電のしやすさ度合いで言えば人毛に程近い位置です。したがって、ガラス板を下敷きのように髪の毛に擦り付けてもあまり多くの電子が移動せず、下敷きほどには髪の毛が逆立たないわけです。
”バチッ”とくる静電気の仕組み

「静電気」と言えば厄介なのがドアノブを触った時などに指先に走るバチッとした衝撃。不快というか不愉快というか、急にバチっと来られると口元で「ちっ(イラッ)」と静電気とは別の音が漏れ出たりします。
このバチッとくる静電気もここまでお話ししてきた「静電気」と本質は同じなのですが、下敷きと髪の毛の場合とは「電子」の流れる圧力に違いがあります。
ドアノブの多くは「金属」で出来ています。「金属」は電気を通しやすい。つまり「電子」が移動しやすいために大量の「電子」が一気に人体(指先)へと流れることでバチッとした衝撃が走ります。
ではでは、「金属」がなぜに電気を通しやすいのか。
話が少し遡りますが、物質同士は電子を共有したりすることで結合している「共有結合」と言うお話をしましたが、「金属」の場合には「金属結合」と言う別の方法で物体として結合しています。
金属の面白いところは隣接する金属原子が最外殻の価電子を共有するのではなく、金属の物体全体として価電子の一部を持ちつ持たれつやっているところです。金属結合の内部では最外殻の価電子が金属物質の中を行ったり来たり、あっちに行ったりこっちに行ったりと移動しまくります。この状態の電子のことを「自由電子」と言い、金属は他の物質に比べて電子が動き回りやすい状態にあります。
これをもう少しわかりやすく図にするには「電子雲モデル」と「ボーアのモデル」を合体させて見てみるのが良いでしょう。
「電子雲モデル」は「電子」の存在している場所の確率をイメージ化したものですが、金属結合の場合には金属原子の原子核たち全体に雲が覆うようにして電子の居場所が在ります。

このように金属の原子の集まり全体を覆うようにして電子が存在することでここの原子が引きつけられ、まるで電子の海のようになり、それが糊のような役割をしています。
そこに別のところから余分な電子が流れ込んできた時、金属の中では電子が動き回りやすいのでこっちはいっぱいなんであっちに行ってくれーとどんどん電子を先へ先へと送り出していきます。これが電池に電球をつなげた時の導線の仕組みです。

再度、帯電列を見てみますと、鉄や銅、アルミなどの金属はマイナスに帯電しやすいことがわかります。これは金属結合という結合の仕方によって自由電子の海の中に電子がどんどんと流れ込んでくることで過剰に「電子」を蓄えられるからです。
ドアノブなんかはドア自体が木材でできていることが多いですから、金属に比べてプラスに帯電しやすい木材から少しづつでも「電子」を蓄えてしまいますね。そのようにして何処かからやってきた電子はドアノブの先に行き場がなければそこに留まるしかありません。どんどんとドアノブに電子が溜まって「マイナス」に帯電していきます。
さて、そこに人がやってきてドアノブに手を近づけます……すると、行き場を失っていた「電子」は「あそこに行き場があるぞー!」と言わんばかりに一斉に指先へと猪突猛進していきます。

今まさに指先がドアノブに触れようとする直前、普段は電気を通しづらい「空気」に強い電圧がかかり(電子がぎ流れてぎゅうぎゅうと押されている状態)空気中をどりゃーっ!と電子が流れます。
「空気」は”電気が流れ辛い”、つまりは「抵抗」となるわけですからそこで「光」と「熱」を出しながら私たちの人体へと「電子」たちが流れ込んできます。同時に「空気」は熱を与えられて温度が上がると膨張するため、急な膨張によって空気が振動し、いわゆる「衝撃波」として「バチッ」という音が聞こえます。
【電球がなぜ光るのか】
電球の「フィラメント」は電気が流れ辛い物質でできています。そのため電球はときに「抵抗」と言われます。そこへ電気(電子)が流れるとき、流れきれなかった「電子」が外へと放出され「光エネルギー」と「熱エネルギー」に変換されます。そのため電球は明るく光り、熱くなるのです。
この時流れ込んでくる「電子」の量(電流)は人体にとってはさほど多いものではないため”感電”こそしませんが「電子」が流れ込んでくる時の勢い(電圧)は強いために指先には衝撃が走ります。(電子にビンタされた感じ?)
わかりやすいように金属と人体でお話ししましたが、このような静電気の流れは先ほど述べたような衣服同士の擦れなどでも起こります。セーターを脱ぐときに「パチパチ」と音が鳴るのは衣服の素材同士で静電気が発生し、それが流れるからです。
さらには「雷」も大きな「静電気」と言えます。大きな雲の中で小さな氷の粒と大きな氷の粒が擦れあってそれぞれに帯電し、地面に向かって放出したり、逆に地面から雲に向かって放出されることもあります。「雷が落ちる」と言いますが「雷は登る」こともあるんです。「雷」についても面白いのでまた別に記事を書きましょうかねぇ……。
静電気を抑えるための服を選び、植物に触れる
「静電気」について気になるのがやはり服選びですよね。昨今、多くの人が肌着として身につける”ヒートテック”ですが、このヒートテックがまた非常に静電気を起こしやすい素材でできています。
具体的には「レーヨン」「アクリル」「ポリウレタン」「ポリエステル」といった素材でできており、これらの多くは帯電列においてとても”マイナスに帯電しやすい”性質を持っています。
対してその上から着るシャツやセーターが綿やナイロン、羊毛であったりするとの、これは”プラスに帯電しやすい”素材ですからヒートテックと重ね着するととても静電気を起こしやすくなります。
衣服の重ね着で起こった静電気はプラスにせよマイナスにせよ帯電して人体を通して流れるため、ドアノブなどの金属に触れようとするとバチっときてしまいます。
そこで電気が流れにくく、人体よりもマイナスに帯電しやすい植物などに触れることで、ゆっくりと電子の流れを作り、体を電気的に中性化してからドアノブに触れることでバチっという静電気を防ぐことができます。
ちなみに、なぜ冬場の乾燥した時期に静電気が溜まりやすいのかというと、湿気が多いとその水分へと静電気が放電されるため体や物に静電気が帯電し辛いためです。湿気がいわゆるアースの役割をしているわけですね。
この記事を書いているのはもう年末に差し掛かろうというところ、かなり寒くもなってきましたし乾燥もしています。私の住む大阪でも今朝少しだけ雪がパラついたようです。乾燥すると火事にも気を付けねばなりませんし、昨日には大きな放火事件もあり、胸がつぶれる思いです。
静電気にお気をつけいただきながらもしっかりと温かい服装をして、体調を崩さないようにしましょう。何よりも体が資本です。