2022年8月26日に九州大学から【世界に先駆けてリアルな「3Dデジタル生物標本」を1400点以上公開】と題した研究成果がプレスリリースされました。
公開されたデータは「フォトグラメトリ」という技術で撮影されたもので、ダウンロードせずともパソコンはもちろんスマートフォンのブラウザ上からでも閲覧可能。CC BY 4.0(クリエイティブ・コモンズ表示4.0)に則って営利目的でのダウンロード利用も可能といった椀飯振る舞いな内容です。
今回の記事ではこのリリースの内容を見ていきましょう!(面白すぎてちょっと興奮気味な私。)
目次
・早速3D標本を見てみよう!
・なぜ3Dデジタル標本を公開したのか
・何に利用するの?
・日本科学振興協会(JAAS)への期待
早速3D標本を見てみよう!
何はともあれまずはその3Dモデルの標本とやらを見てみようではありませんか。
3Dデータが公開されているのは「Sketchfab」という3DやVR、ARのコンテンツを共有したり売買することのできるwebサービスで、そこから3Dのデータなどもダウンロードすることが可能となっています。
記事への貼り付けも出来たので以下に載せておきます。
画像の再生ボタンを押していただいてスマホであれば指でグリグリ、パソコンならマウスでグリグリすると3Dの生物標本をあらゆる角度から見ることができます。もちろん拡大も可能で写真の解像度による限界はありますがかなり細かいところまで見ることができます。
画像が表示されていない場合やもっとたくさん見たいという方は【https://sketchfab.com/ffishAsia-and-floraZia】へと直接アクセスしてみてください。
魚などの水性生物からカエルなどの両生類、トカゲや亀などの爬虫類、多くの昆虫や海老や蟹などの節足動物、そして植物も含めて1400点700種以上の生物が閲覧可能となっています。
いやほんと、色々な生物を拡大したり回転したりしていると時間を忘れて見入ってしまいますね。我が家にも動植物の標本がいくつかありますが、デジタルデータなのに実物に見劣りしない高解像度です。
特に植物標本は色の褪色や劣化が激しく色を残すことが困難であるため3Dでのデジタル標本は(モニタによる表現色の差はあるにせよ)植物の持つ色を鮮明に見ることができてとても有益に思えます。
そしてまた嬉しいことに一部の生物では骨格標本の3Dモデルも見ることができます。
これはなんとも嬉しい楽しい勉強になります!
なぜ3Dデジタル標本を公開したのか
見ていただいたように1400点というたくさんの生物の3Dデータが無償で提供されています。これには多くの金銭的な費用もかかっているはず。なのに何故、九州大学はこれらのデータを公開したのでしょうか。
プレスリリースからその理由を抜粋してお届けします。
標本の一番の利点は360度全体をじっくりと眺めることができるということ。生物図鑑などの写真では2次元画像でしか閲覧できず、博物館などで公開されている標本も一般の人々が手に取って隅々まで観察するなんてことは現実的に不可能です。
学術研究における生物の標本は基本的に博物館や大学に保管されており、特に重要な標本は厳重に保管されているため一般人が手軽にアクセスすることは非常に困難なものとなっています。
そんな中、デジタル化が進む社会において今後の生物図鑑は写真などの2次元画像だけではなく3Dモデルによるデジタル図鑑へと変容していくと考えられ、それに先駆けて「フォトグラメトリ(※)」の技術を用いて生物の3Dデータを作成し公開することにしたのです。
また、今回使われている「フォトグラメトリ」の技術はこれまで実践されてきた生物標本の3Dモデルの主流であったCT やMRIに比べて設備などの費用が安くリーズナブルな価格で3Dモデル標本を製作が可能になったことも一般公開が可能となった一因と言えるでしょう。
今後もっとたくさんのデジタル標本が公開されるのかもしれませんね。
※フォトグラメトリとは被写体を回転させたり複数のカメラを用いて様々なアングルから写真を撮影し、それらを統合して3Dのモデルを製作する技術。九州大学は今回のような生物標本を3Dモデル化する技術を「バイオフォトグラメトリー」と銘打っています。
何に利用するの?
九州大学のプレスリリースによればこれらの3Dモデルのデータは生物学のみならず様々な分野で応用可能であると考えられています。
例えば先ほど紹介したような3Dモデルのデジタル図鑑として用いることで学校での授業にも用いることが可能でしょうし、メタバースやバーチャルリアリティを用いた教育にも役立てられることが期待されています。
個人の利用においては私のような絵を描いたり物を作ったりする人間としては3Dで様々なアングルから動植物を観察できるのは非常にありがたいですし、クリエイティブな領域でも幅広く活用されることが期待できそうです。
関連の論文によりますと分類学、博物館学、形態学、解剖学、生態学、教育、人工知能 (AI)、仮想現実、メタバース、そして最終的にはオープンサイエンスなど様々な分野に貢献できることが示唆されています。
日本科学振興協会(JAAS)への期待
生物標本の3Dモデルデータの活用事例として「オープンサイエンス」 という言葉が出てきました。
「オープンサイエンス」とはこれまで学術研究が大学や博物館や企業などの研究者や専門家が行なっていたものであったのに対し、非専門家を含めたあらゆる人々が学術的な研究や調査を行いそれを発表したり専門的な情報にアクセスすることができる「開かれた科学」を目標とする運動を指します。
日本におけるオープンサイエンスを牽引してくれるのではないかと個人的に期待を寄せているのが「日本科学振興協会(JAAS)」です。「日本科学振興協会(JAAS)」は「アメリカ科学振興協会(AAAS)」の取り組みを参考に日本でももっと科学を盛り上げていこう!という団体。
「アメリカ科学振興協会(AAAS)」はかの有名な「サイエンス」の出版元であり170年もの歴史があるのに対して「日本科学振興協会(JAAS)」は2020年から準備され2022年の2月にNPO法人化したとても新しい団体。
「日本科学振興協会」の準備段階である「日本版AAAS設立準備委員会」の設立趣旨によりますと形態として「分野、組織、職種・職階、世代の垣根を超え、科学を支える人が誰でも参加できるボトムアップ型の組織」が掲げられ趣旨として「信頼性の高い知識体系の構築、有用な技術の開発、それらの社会における活用と普及を支援し、促進することをその使命」としています。
お堅い言葉で書いてありますが、ざっくり要約するともっと科学者間の交流や協力を活発化すると同時に、一般の社会の中でも科学にもっと興味を持ってもらおう!といったところかと。
日本国内発の運動として、今回紹介した九州大学の「生物標本3Dモデル」の公開や日本科学振興協会の発足など一般社会にもっと科学が開かれたものになってほしいと願う人たちが多くいて、それが実行されていることを私はすごく嬉しく思うのでした。
「日本科学振興協会(JAAS)」については後日改めて別の記事で紹介したいと思っています。