
当ブログはミーム論についての考察を中心にしており、やはり「ミーム」や「ミーム論」といったキーワードでアクセスしてくださる方が多いです。もっともアクセスの多い記事は「第6回【ミーム論概説:様々なミーム論】」なのですが、可能な限り詳しく説明しようとするあまり長文になってしまいがちなのが私の記事の悪いところ。
私の冗長な文章をみて「これだからミーム論者は……」と思われるのも残念なので、今回はミーム論について知りたい方が入門的に読んでみてほしい書籍を簡潔に3冊ご紹介して「第6回【ミーム論概説:様々なミーム論】」の補足的記事にしておきます。
目次
その1:佐倉統著【遺伝子vsミーム―教育・環境・民族対立】
−サピエンス全史を読んで「ミーム論」に興味を持った方におすすめ!
その2:スーザン・ブラックモア著【ミーム・マシーンとしての私〈上〉】
−これからミーム論を詳しく知っていきたいという方におすすめ!
その3:リチャード・ドーキンス著【利己的な遺伝子】
−やはりまずは「ミーム」という言葉の原典が読みたいと言う方におすすめ!
オススメその1:佐倉統著【遺伝子vsミーム―教育・環境・民族対立】
サピエンス全史を読んで「ミーム論」に興味を持った方におすすめ!
ミーム論の本を探すとそのほとんどの著書が英語の日本語翻訳版と言うなか、東京大学教授であり進化学者の佐倉統氏が著された「遺伝子vsミーム」はミーム論の入門書としてもかなりおすすめです。
特に昨今話題になった「サピエンス全史 」を読んで「ミーム」と言う言葉に興味を持った方には読みやすい内容かと思われます。
人類進化の中でホモ・サピエンスの登場について道具の進化や脳とミームとの関係に加え、「社会」や「文化」をキーワードに置きミームの共有によって協力しあう仲間や敵の区別を強調する役割をしていると語られます。
この文脈で佐倉氏はこのミーム共有による仲間意識や区別について「(捏造する?)」と補注されており、まさに「サピエンス全史 」で語られた「虚構」に通づる概念であることが伺えます。ちなみに「サピエンス全史」の英語版の原書が2015年出版に対して佐倉統氏の「遺伝子vsミーム」は2001年が初版です。
また老齢期のヒトが若い世代に伝える知恵の伝達や現代社会における教育のあり方、環境問題や民族対立などとても広い視野でミーム論が語られていて簡潔ながら興味深い内容となっています(さすが東大教授!)。
「遺伝子vsミーム」はあとがきを入れても200ページ程度で軽くスラッと読めちゃいますのでミーム論入門としてとてもおすすめできる1冊です。
その2:スーザン・ブラックモア著【ミーム・マシーンとしての私〈上〉】
これからミーム論を詳しく知っていきたいという方におすすめ!
ミーム論のことをネットで調べたけど、もうちょっと具体的に(そして簡単に)詳しく知りたいなという方はスーザン・ブラックモア著「ミーム・マシーンとしての私(上)」がおすすめです。上下巻あるのですが、とりあえず上巻を読めばブラックモア氏の考えるミーム論については理解できる内容となっています。
人々がミームをやり取りする(伝達する)には「模倣」が重要なキーワドになるのですが、「ミーム・マシーンとしての私」ではまずこの「模倣とは何か」を定義し話が始まります。そしてミームとダーウィニズム(遺伝子的進化)とのアナロジーに触れながら(「利己的な遺伝子 」が”遺伝子の視点”で生物の進化や生態を書いていたように)ミームの視点で人の行動や文化について考察されます。また、ミーム論と脳の進化の関係やミームと遺伝子との共進化についてなどミーム論を考察する上で地盤となる基本的な概念が考察されているのでミーム論の全体像を把握する上で便利な一冊です。
そして、この上巻でもっとも重要となるのが第5章【ミームをめぐる三つの問題】で挙げられるミームに対する懐疑論です。ミーム論を楽しむためにはミーム論に対する批判や懐疑的な意見を然りと受け止める必要があると私は考えているのでミーム論”批判”入門書としての役割もあります。
具体的に第5章【ミームをめぐる三つの問題】では
・ミームの単位を特定できない
・ミームのコピー及び貯蔵のメカニズムがわかっていない
・ミーム的進化は「ラマルク主義的」
(※「ラマルク主義」とは後天的に身につけた形質が子孫に遺伝するとする進化論の立場。基本的に遺伝子による進化論の考え方では後天的な形質は子孫に遺伝しないとする立場をとる。)
以上の三つの問題が具体的に挙げられますが、これらの問題はミーム論がナンセンスなものとして批判されるときによく指摘される部分なので、今後ミーム論にどっぷり浸かって行こうという時に知っておくのがベターだと思います。
その3:リチャード・ドーキンス著【利己的な遺伝子】
やはりまずは「ミーム」という言葉の原典が読みたいと言う方におすすめ!
言わずと知れたミーム論の原典、リチャード・ドーキンス著「利己的な遺伝子」です。世界的なベストセラーとなり1976年の原書出版から40年以上たった今でも「増補新装版(30周年記念)」や「40周年記念版」として再販されており、当ブログのアクセスキーワードとしても多いことからも(良くも悪くも)衰えぬ人気ぶりが伺えます。
ミーム論と言えばまず紹介されがちな本書ですが、この「利己的な遺伝子」は補注などを入れると500ページを超える分厚い本で入門としては取っつきにくい印象があります。その上、実はミーム論について書かれた本ではなく、社会生物学を通して生物の進化論を遺伝子の視点から理解しようという内容なのです。
そのため著書の大半の部分ではミーム論について一切触れられません。それでもなぜ入門としておすすめするのか。著書内でほとんどミームについて書かれていないということは、裏を返せば500ページ全部を読む必要はない!ということです。
私の手元にあるのは「増補新装版(30周年記念)」ですが、内容が第1章〜第13章まである中で「ミーム」が登場するのは第11章以降となるため「ミーム論についてだけ知りたい!」という方は前半部分をざっくり読み飛ばしちゃいましょう。
ただしミーム論はあくまでも遺伝子とのアナロジー(類推)によって生まれた概念であるため、13章以降を読み終わった後に興味があれば最初から読んでみる方が良いと思います。ミームの持つ「自己複製」の概念や「多産性」や「忠実性」というのも元は遺伝子とのアナロジーからきている言葉なのでより深く「ミーム論」を知るためには重要かと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。これらの3冊以外にもミーム論について書かれた本はいくつかあります。私の本棚でも紹介していますので気になる方はそちらも覗いてみてください。
ミーム論に関する書籍はそんなに多くないのですが、どれも内容が少し難しい上に分厚いので入門書としてはちょっと読みにくい印象があります。しかし今回紹介した佐倉統著「遺伝子vsミーム」、スーザン・ブラックモア著「ミーム・マシーンとしての私 (上)」、リチャード・ドーキンス著「利己的な遺伝子」の3冊はとても読みやすく網羅的なので入門書として紹介しました。
本読むのって楽しいですよね。それではまた。