昨今のニュースでよく耳にする危険ドラッグ「MDMA」や「MDA」。こう言った危険な薬物は厳にその使用と流通を無くすべきです。
さて今回紹介する化学物質「DHMO」はそんな危険ドラッグたちと引けを取らないほど危険な物質で、しかも私たちの身近に存在します。
記事タイトルに「心理実験」とつけていますが、「DHMO」自体は実際に存在する物質で架空のものではありません。取り扱いには十分に気をつけてください。
では何が”心理実験”なのかというと……、そのネタバラシは後にした方が面白いので早速本題に入りましょう。
目次
・化学物質「DHMO」の危険性と利便性
・DHMOを規制すべきか
・DHMOの正体
・DHMOのネタバラシ
・難解な表現による印象操作
化学物質「DHMO」の危険性と利便性
DHMOとは「dihydrogen monoxide(ジヒドロゲンモノオキシド)」の略で英語の頭文字をとったものとなります。
危険ドラッグである「MDMA」も「Methylendioxymethamphetamine(メチレエジオキシメタンフェタミン)」という物質名の頭文字からとった略で、こうした名称の簡略化が若者にとって親しみや”クールさ”を感じさせると指摘する人もいます。
では、まずはこの化学物質「DHMO」の危険性について知っていただこうかと思います。
DHMOの危険性
・水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である。
・温室効果を引き起こす。
・重篤なやけどの原因となりうる。
・地形の侵食を引き起こす。
・多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる。
・電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。
・末期がん患者の悪性腫瘍から検出される。
どれもこれも注意しなければとても危険であることがわかります。
環境破壊の代名詞とも言える温室効果をもたらし、酸性雨の主成分でもある。
さらには他の物質を腐食させたり錆びつかせるなど無機物に対する被害も甚大です。
また、触れるだけで火傷を負うこともあり、癌などの悪性腫瘍からは多量に検出されることもあります。
しかしながら、こうした物質でも取り扱い方さえ間違わなければ私たちの生活にとってとても大きな利便性をもたらしてくれたりもします。
DHMOの利便性
・工業用の溶媒、冷媒として用いられる。
・原子力発電所で用いられる。
・発泡スチロールの製造に用いられる。
・防火剤として用いられる。各種の残酷な動物実験に用いられる。
・防虫剤の散布に用いられる。
・洗浄した後も産物はDHMOによる汚染状態のままである。
・各種のジャンクフードや、その他の食品に添加されている。
工業用に用いられるだけあって危険性はあるものの利便性も大いにあることがわかります。
昨今その危険性で話題となる原子力発電所でも大量にDHMOが用いられていることが知られ、それによって爆発も起きました。
生物に対する危険性としては動物実験に用いられたり、防虫剤などの散布に用いられたりなど、そのDHMOの危険性を利便性に変えていることが伺えますね。
そして、DHMOは洗浄しても落ちないことがほとんどです。ましてやDHMOの含有率が増えることすらあります。しかし、DHMOの高い触媒効果によってDHMO以外の物質を取り除いたり洗浄したりすることには役立ち、工業製品の生成などにも大いに活躍します。
DHMOを規制すべきか
こんな危険性と、それを利用した利便性があるDHMLですが、実はほとんどの国でその使用が制限されたり規制されたりということがありません。
手に入れてしまえばその使用は自由ですし、しかも比較的容易に手に入れることもできるものです。
日本においても事故や故意に関わらずDHMOが死因と考えられる死亡は後を立たず、その危険性についてはもっと周知すべきことのようです。
こうした事実からアメリカで「このDHMOを法で規制すべきか」とアンケートをとったところ86%もの人が規制に賛成しました。
アメリカのアリソ・ビエボ市では市議会で「DHMO」の規制に関する決議が行われましたが、その決議はなんと途中で中止となり、結果として規制されることはありませんでした。
多くの人々がその危険性を知り、法律による規制が必要であるとしたにも関わらず、市議会はその決議を中止したのです。
何かの陰謀なのでしょうか……。
あなたも「DHMO」を規制すべきだと思いませんか?
DHMOの正体
さて、その危険性は十分にご承知いただいたというところで、このDHMOの正体を明かしましょう。
「DHMO」、正式名称「dihydrogen monoxide(ジヒドロゲンモノオキシド)」の化学式「H2O」で表される水素と酸素の化合物です。
そう、「水」です。
「DHMO」は「水」です。
「DHMO」は「水」です!
大事なことなので3回言ってみました。
騙された!と思う方もいるかもしれませんが、先述の「危険性」と「利便性」についてもう一度確認してみてください。
そこには嘘は書かれていません。全て事実です。
多少の誇張はありますが、酸性雨の主成分は「水」なのには間違えありませんし、確かに熱湯に触れれば火傷します。
原子力発電所をはじめとした工業では冷媒や触媒として多く使われていますし、日本においても川やお風呂などでの溺死による死亡事故も多いです。
さて、ここでもう一度考えてみましょう。
そんな「水」を規制すべきでしょうか。
「DHMO」のネタバラシ
この「DHMO」は最初は1990年にカルホルニア大学サンタクルーズ校の学生たちによってジョークとしてwebサイトが立ち上げられました。
そして1997年、そのジョークを知った当時14歳であったネイサン・ゾナーが「人間はいかに騙されやすいか」という心理実験的な調査を行うために利用します。
ジョークサイトに載せられた「DHMOの危険性」を周囲の人たちに教え、「このDHMOを法的に規制すべきか」というアンケートをとったのです。
すると50人中43人(全体の86%)が規制について賛成し、6人が回答を保留。これが「水」であることを見破ったのはたったの1人でした。
この実験のアンケートが部分的に広がってしまい、先述の通り実際にアリソ・ビエボ市でその規制についての決議がなされたのですが、それがジョークである事実が発覚すると即座に決議中止となります。
何かの陰謀じゃなくてよかったですね。
いい大人がそんなジョークに引っかかるなんて……と思うかもしれませんが、そもそも私たちは日常的にこうしたトリックに引っかかっている可能性が大いにあります。
難解な表現による印象操作
テレビや新聞、そしてインターネットでも「印象操作」と言われるニュースが度々あります。
それら印象操作は製作者が”意図的に”行っている場合と、そうではない場合があります。
テレビにしても新聞にしてもニュース記事を読み上げる際に時間や文字数などに制限があります。
時間をたっぷり取れれば事細かに説明するのでしょうけど、そんなことをしていてはいくら時間があっても説明しきれないので、少し専門的な単語や説明がどうしても入ってきてしまいます。
同時に、危険性や利便性についても短時間で端的に述べられてしまうことがほとんどです。
そうしたとき、聞き手は「なんか難しそうなことを言っているな」「でも専門家が危険だって言うから危険なんだろう」と安直に感じてしまいます。
しかも重々しい雰囲気と言葉遣いで伝えられたなら尚更のこと。
危険性を伝えることが目的であるのだから製作者側からすればその”危険性”が伝われば十分と考えるわけですが、受け手側はその”危険性”について過剰に受け取ってしまうことが多々あります。
これはまさしく「DHMO」と同じ現象で、その物事の本質が抜け落ちているために起きる解釈の齟齬です。
「DHMO」では利便性にも触れるわけですが、その利便性すらも重々しく「原子力発電所」や「防虫剤」と言ったような嫌悪感を孕ませた雰囲気で語られ、まさに”故意の印象操作”が行われているのもポイントです。
さらにこの記事では意図的に”危険な化学物質”を彷彿とさせるような写真も使用すると同時に、水であることを示唆する写真も使用しました。
「それって水じゃん」と気が付くには、それ相応の分析と観察力が必要です。
物事の本質を見極めようとするのはなかなかに難しいことですが、自分が見聞きする出来事をそのまま安直に受け取るのではなく、
いちど冷静になって、真実とはなにか、相手は何を伝えようとしているのかを考えてみるのも大事なことですね。
参照・引用
DHMO(Wikipedia)