最近の照明用電球はLEDになっているところも多いですが、まだまだ根強い需要のある「白熱電球」。
「白熱電球」の最大の弱点である寿命の短さや消費電力の多さもあって昨今の環境保全の観点から特に先進国では白熱電球の生産を止める企業も多く、EUに至っては段階的にではありますが白熱電球の輸入や個人による持ち込みまでも規制される方針です。
そんな旧世代の灯りとなりつつある「白熱電球」ですが、その最大の弱点はなんと言っても寿命の短さです。一年に何度かお風呂やトイレ、玄関の電球が切れて交換したことがある方も多いでしょう。
めんどくさいなぁと思いつつ半年くらい暗い玄関で靴を履くといった経験を私もしております(笑)
昨今ではLED照明が増えて電球が切れると言うことがあまりなくなったように感じられますが、LED電球にも当然寿命があります。
どうにか切れない電球を作れないものなのでしょうか。
と、ここで急に今回の本題。実は100年以上灯りの切れない電球って作れるんです。そして実際に100年以上灯りを灯し続けている電球が実在しています。
100年も点灯し続けるなら一生電球変えなくていいじゃん!なのになんでそんな便利なものを売ってくれないの?
まさか、わざと切れるようにして私たちに何度も買わせるため?なんて卑しい!
今回はそんな社会の闇が見え隠れする「切れない白熱電球」についてご紹介いたします。
目次
・100年以上明かりを灯し続ける「センテニアルライトバルブ」
・なんで100年経っても切れないの?
–フィラメントが太く素材も異なる
–明かりをほぼ付けっぱなしにしている
・白熱電球の寿命が短いのはカルテルのせいだった
・白熱電球は消えゆく運命
100年以上明かりを灯し続ける「センテニアルライトバルブ」
切れない電球は作れないのか。結論としては永久に切れない電球はほぼ不可能でしょうが、100年以上切れていない電球は実在しています。
それが「センテニアルライトバルブ(Centennial Light Bulb)」と呼ばれる白熱電球です。
「センテニアルライトバルブ」は1901年から点灯しており、アメリカのカルフォルニア州にあるリバモアプレザントン消防署が管理と維持を行っていて、現在進行形でこの電球は明かりを保っています。
その期間なんと120年間(2021年現在)、時間にしておよそ1,051,200時間(105万時間)も付きっぱなしです。
「ちゃんと電気消しなさい!」ってお母さんに怒られちゃいそう。
一般的に白熱電球の寿命は1000〜2000時間と言われますのでそれに比べると500倍以上の寿命を持っていることになります。
「センテニアルライトバルブ(Centennial Light Bulb)」は「最も耐久性のあるライト」として1972年からギネスに登録され、1988年から何故か不記載となったものの2006年からはまたギネス記録に復活しているようです。
この「センテニアルライトバルブ(Centennial Light Bulb)」は現在でこそたまにメディアで取り上げられて観光の目玉としても取り沙汰されるようですが、電球の発売当時はごく一般的に量産されていたものでなんら特別なものではありません。
今なお現存する「センテニアルライトバルブ」は複数あると考えられており、確認されているだけで4つほど見つかっているそうです。
なんで100年経っても切れないの?
先述の通り、白熱電球の寿命はおおよそ1000〜2000時間と言われていますが、「センテニアルライトバルブ」はその500倍も長持ちしています。
科学技術も製造技術も100年前より進歩しているはずの現代において、たった1年そこらで電球が切れてしまうと言うのはいかがなものか。
「センテニアルライトバルブ」のような丈夫な電球は何か特別な技術を使っていて、その技術は失われてしまった過去の技術「オーパーツ」か何かなのでしょうか。
いえいえ、そうではありません。
我々が普段目にする白熱電球も「センテニアルライトバルブ」も作り方や構造はほぼ同じ。なんら特別なものではありません。
100年間ずっと明かりを灯しているとはいえ年々明かりは弱くなっています。
「センテニアルライトバルブ」の発売当初は一般的な30wか60wの電球だったとされていますが、現在では4wほどの明かりしか発していません。
60wといえば一般的なスタンドライトくらい明るさです。照明の位置や高さにもよりますが、30wや40wになると少々暗くなりますが本や雑誌を読むのにはまぁ問題ない程度。
しかし、4wと言うのはいわゆる「ナツメ球(5w)」と言われるような常夜灯程度の明かりしかありません。
子供のころ寝る時に「ちっちゃい電気つけといて……」と懇願するあのオレンジ色の明かり程度です。
100年ものあいだ電球が切れないからといってスタンドライトが常夜灯程度の明かりになれば流石に交換しますよね。
とはいえ、それでも100年以上明かりを灯し続けていると言うのは凄いことです。何せ現代の電球はバツン!といきなり切れてしまうわけですから。
では、ジワジワとでも長寿命の「センテニアルライトバルブ」と現代の白熱電球とは何が違うのでしょうか。
■フィラメントが太く素材も異なる
まずひとつあげられる大きな違いはフィラメントの太さです。
フィラメントとは、白熱電球の中に入っているぐるぐる巻きの細い針金のような物体。
このフィラメントに電気を通すと抵抗を生み、熱と光を発するため白熱電球は明るく光り同時にあっちあちに熱くなるのです。
フィラメント(抵抗)に電気を流すと熱が発生し、その熱エネルギーが光エネルギーとなることで私たちは灯りとして利用するわけですが、この現象を「白熱化」と言い、そのため「白熱電球」と呼ばれるのです。
熱を発すると言うことから稀に「発熱電球」と間違われて呼ばれることがありますね。発音も似ていますしわからんでもない。
フィラメントが白熱化するとそのフィラメントは昇華(いわゆる蒸発)していきますので細いフィラメントがどんどん細くなっていき、いつかはそのフィラメントが切れてしまいます。
するとそこに電気が通らなくなるため白熱化が起こらなくなり「電球が切れる」わけです。
と言うことは単純にこのフィラメントをめちゃくちゃ太くすれば寿命は伸ばせます。
なんと「センテニアルライトバルブ」のフィラメントは現代の白熱電球に比べて8倍もの太さがあるそうです。(参考:切れない電球の世界記録が116年目 [神の領域])
また、現代の白熱電球に使われているフィラメントの素材はタングステンですが、「センテニアルライトバルブ」にはカーボン(炭素)が使われていることも理由のひとつかもしれません。
タングステン系のフィラメントは1904年に発明されましたが、この時点ではまだ寿命も短く、一般的に普及するレベルで寿命を伸ばすのにそれから10年ほどかかっています。
それまではトーマス・エジソンが発明したとされるカーボン(炭素)系のフィラメントが一般的だったんですね。
■明かりをほぼ付けっぱなしにしている
もうひとつ「センテニアルライトバルブ」が切れにくい理由が明かりを付けっぱなしにしているからと言うことが考えられます。
電球が切れる時って、電気をつけた瞬間に「バチン!」と切れることが多くないですか?
あれはフィラメントに電気を流し始めたときに一時的に大きな電流が流れる「突入電流(インラッシュカレント)」と言うものに起因するためです。
フィラメントは「白熱化」することで電気が通りやすくなるのですが、白熱化前の冷えた状態のフィラメントは非常に電気が通りにくい状態となっています。
フィラメントは基本的に電気が通りにくい素材であるからこそ「抵抗」と言われ、その抵抗があるからこそ電気エネルギーが熱エネルギーと光エネルギーに変えられるのです。
そのため、冷えた状態のフィラメントに電気を通すと一時的に大きな電流が流れることとなり、フィラメント自体に大きな負荷を与えます。
その大きな負荷がフィラメントにダメージを与えるので電気をつけたり消したりを頻繁に行うほど寿命が短くなるのです。
机のスタンドライトは一度つけたら数時間はつけっぱなしですが、玄関の照明は靴の脱ぎ履きの時にしかつけない上、1日に何度もつけたり消したりをするので、長時間付けっぱなしのスタンドライトとたまにしか使わない玄関の照明が大差のない寿命になってしまうのです。
その観点から見ると、リバモアプレザントン消防署にある「センテニアルライトバルブ」は1901年の設置以後ずっとつけっぱなしで、引越しや設置場所の変更によるごく僅かな回数しか消されたことがありません。
また、「センテニアルライトバルブ」の保護に力を入れてからは電気設備の管理をしっかりと行っているようで、電流電圧の管理までが行き届いており私たちが普段使っている用途での電球とは比べ物にならないほどの手厚い管理がなされています。
また先述の通り、現在では4wほどの非常に弱々しい明かりしか発していません。そのことを鑑みると手厚い保護と言うのはほとんど延命措置みたいな状態です。
この状態の電球を「切れない電球」と言うのはいささか誤謬があるのではないかと思うのは私だけでしょうか。
白熱電球の寿命が短いのはカルテルのせいだった
白熱電球がすぐ切れるのはカルテルのせいだ!儲けを優先する企業の陰謀なんだ!と言う説があります。
残念ながらこの陰謀は存在しません。
と言うかこれそのものが周知の事実です。当時は陰謀であったのかもしれませんが、現在では影に隠れたものではありません。
「センテニアルライトバルブ」が設置され点灯された1901年といえば世界は第二次産業革命(1850年代〜1900年)以後の化学・電気・石油が産業の中心となっている電気の時代です。
また、第一次世界大戦集結から第二次世界大戦の勃発までの戦間期とも呼ばれる時代ですね。
この間に世界は急速的に電気技術が発達し、多くの企業が多大な利益を得ることになります。
そんな中、白熱電球の生産と販売を支配するために結ばれた国際的な企業協定(カルテル)が「ポイボス・カルテル」です。
「ポイボス」とはギリシャ神話における「光の神」の称号のこと。つまり「光」を牛耳るための企業協定なのです。
「ポイボス・カルテル」ではアメリカ、イギリス、フランスなど第一次世界大戦の戦勝国である各国の企業が白熱電球の生産販売で利益を得るために、「白熱電球の寿命を1000時間以内にする」と言う取り決めがなされ実行されました。
俗に言う「計画的陳腐化」と言われるもので、製品の寿命や品質を故意に劣悪化させ短いスパンで消費活動を行わせることで企業などが利益を得ようとするものです。
この白熱電球に関する「ポイボス・カルテル」は実際に約20年間も維持されたとされ電気産業の技術競争や発展を妨げたとされています。
この「ポイボス・カルテル」は当初1900年から1955年までの契約とされていましたが、第二次世界大戦の勃発やその後の反トラスト法の制定(日本で言う独占禁止法)により糾弾されたことで活動の休止にも至っています。
現在ではあまり表立って「ポイボス・カルテルやってまーす!」なんて言うことはないでしょうが、LED電球の開発当初の寿命が10万時間と言われていたのに発売時には5000時間と大幅に寿命が変更されているなどなんだか疑いたくなる部分もありますよね……
しかし、LED電球に関していえばLEDの制御基板の寿命やその他の部品の劣化のこともあるので、安全性に配慮するのであればあまりにも長時間使用し続けることは避けたいところでしょう。
予期せぬ漏電による火事や事故のことを思えばある程度現実的な寿命を設定して定期的に新しいものに取り換えることは企業の利益であると同時に私たちの身の安全のためとも言えるのかもしれません。
白熱電球は消えゆく運命
地球の環境保全の観点から白熱電球は消えゆく運命にあります。
白熱電球の代替品として現在一般的なのは先ほどからよく出てくるLED電球ですね。
LED電球の特徴はその寿命の長さもさることながら、電気の消費量が白熱電球に比べて20%と省エネ効果も大きいと言う点が挙げられます。
地球温暖化が二酸化炭素のせいなのか否かについては賛否両論ありますが、現実的に可能な限り不必要なエネルギーを使わないと言うのは大事なことです。
現在、先進各国では白熱電球の生産を縮小・中止することに注力しています。
日本においても2008年に政府が大手家電メーカーに対して地球温暖化防止の名目で2012年を目処に白熱電球の製造中止を呼びかけていました。
ただし、日本において2021年現在でも製造販売が禁止されているわけではありません。
日本国内におけるこれらの施作はあくまでもトップランナー企業に対する呼びかけであり、長期的な視点で省エネに力を入れ将来的な再生可能エネルギーの発展とともに持続可能な社会を構築することを目標にしたもので、全面的にいますぐ白熱電球が根絶されると言うものではありません。
とはいえ、EUではもっと積極的な白熱電球の廃絶の取り組みがされており段階的ではあるものの白熱電球をはじめとする消費電力の多い電球は販売禁止、輸入禁止、個人による持ち込みの禁止と規制は厳しいものとなっています。
EUの施作については消費電力の上限やその用途、そして在庫の販売を含めればまだEU各国で白熱電球を手に入れることは可能とのことですが、日本に比べれば入手の困難度は高いようですね。
LED電球の生産コストが下がってきたことやその消費量が増えたことで販売価格も随分と低くなってきましたので、それこそ余程”白熱電球でなければ困る”と言う場合を除いてはLED電球に変えてしまって問題ないですからね。
お家の電球が切れた時にLED電球にひとつずつでも変えていくことで地球の環境保全活動に貢献できるので、積極的に省エネ電球を使っていきたいものですね。
参考web
100年電球(Wikipedia)
白熱電球(Wikipedia)
突入電流(Wikipedia)
ポイボス・カルテル(Wikipedia)
一般社団法人 日本照明工業会
切れない電球の世界記録が116年目 [神の領域]
白熱電球販売禁止! EUの家庭用ランプ事情
前にひろゆきが、わざと消えるようにして何度も買わせようとしている
的なことを言っていたのですが、そういうことだったのですね、ありがとうございました
コメントありがとうございます。
当該動画と思われるもの拝見いたしました。
切り抜き動画でしたので前後の文脈は分かりかねますが
動画内で『カルテル』と仰っていたのはおそらく当記事でも紹介している「ポイボス・カルテル」のことかと思われます。
記事内でも私見を述べていますがカルテルは休止していますし、
”カルテル”の部分だけを語られるとなんだか企業に悪いイメージを抱く方も多そうですが
(売上云々が全くのゼロではないにしろ)
どちらかというと”安全のために良い”と企業側も考えているのではないかと私は思います。