人類初の偉業を成し遂げるというのはそう簡単なことではありません。だからこそそうした偉業を成し遂げた偉人たちは現代にまで名を残しその功績を讃えられています。
「自動販売機」「蒸気機関」「自動ドア」と言った今では科学の名の下に当たり前に普及している物たちですが、それらの人類初となる発明はなんと古代ローマ時代でした。
今回の話は古代ローマの時代、紀元1世紀頃に活躍したヘロンという数学者の発明品である「自動販売機」「蒸気機関」「自動ドア」がどのような仕組みであったのかをご紹介します。
ヘロンの生きた時代
今回の話の主役は古代ローマ属州エジプトのアレクサンドリアに住んでいたヘロンと言う数学者。時代は紀元100年ごろに生きたと言われる人物です。
紀元100年といえば今から2000年前。科学も何もあったもんじゃないと思われている方も多いかもしれません。
実はこの頃の”哲学”ってやつは非常に奥深くそして優秀で、現代の科学に直結する発見や考察が行われていた時代でありました。
紀元1世紀の頃にはでに現在で言うところの「原子」について言及(ルクレティウス「《物の本質について》)されていたり月食の観察によって地球が球体であると言及(クレオメデス)されていたりと後に科学的大論争となるような科学的テーマをすでに取り扱っていました。
そんな時代を生きていた数学者のヘロン。彼もまた偉大な功績を残しているからこそこうして現代の私たちがその名を知ることとなっています。
古代ローマ帝国は地中海沿岸の地域一帯を治める大きな国でした。そのうち北アフリカ大陸にあるエジプトの地中海側も古代ローマの支配下で、アレクサンドリア(古代エジプト)はそこにありました。
現在でもアレクサンドリアはエジプトの中でも大きな都市としてその名も残っていますね。
パソコンもなければ電気もないような古代ローマの時代に「自動販売機」や「自動ドア」ですからね。それはそれは画期的な発明であったことでしょう。
では早速、それらの発明品の仕組みを見ていきましょう。
人類初の「聖水自動販売機」
自動販売機といえば日本の自動販売機が世界的に有名ですね。その治安の良さからどこにでも設置され、またドリンクの種類も清涼飲料に限らず汁粉やオデン、プリンやゼリーなんかはご承知のところ。ビールなどのお酒類から雑貨やくじ引きみたいな自動販売機まであります。
さてそのような自動販売機ですが、最初の登場は紀元前にまで遡るヘロンの発明であったとされています。
仕組みは以下のような物です。
投入口からコインを入れると受け皿にコインが乗る。その重さで弁の役割をする錘(おもり)が上がり、排出口が開くことで聖水が出てくる。
コインが受け皿から滑り落ちると再び錘が排出口を閉じて聖水が止まる。
なんとも単純な構造ですが、自動販売機の無かった時代に作られたと思うと画期的な発明であったのでしょうね。
この仕組みはヘロンによる著書《気体装置》に掲載されていたそうですが、実際にこれが作られて使われていたかは不明で、また別人の同名であるヘロンによる考案という説もあります。
真相は謎ですが、この仕組み自体が当時の書物に登場していたことは確かなようです。
蒸気機関「アイオロスの球」
次は人類初となる蒸気機関とも言われる「アイオロスの球」です。
「蒸気機関」といえば18世紀から19世紀にかけてのイギリスの産業革命ですね。その時代から遡ること約1800年前には蒸気のパワーは見出されていました。
「アイオロスの球」は図を見るだけでもわかりやすいです。
下の密閉された鍋で熱せられた水蒸気が空洞の支柱を通り上段の球に送り込まれることで噴出口から蒸気が吹き出し、その力で球はぐるぐると回転します。
これに紐なりなんなりをくくりつけて他の物を動かせば立派な蒸気機関の完成です。が、そこまでいかなかったのが惜しい。
ここで「アイオロスの球」から取り出せたはずのエネルギーから何かを動かすことができていれば世界初の蒸気機関発明者としても名を残せたかもしれないのに!
人類初の「自動ドア」
人類初の空気の熱膨張による「自動ドア」は少し複雑です。これもヘロンの発明と言われています。
水の溜まったタンクから2本の管を出し、一方を空洞になった祭壇に、もう一方を空のバケツに入れた構造をしています。
空洞の祭壇に火を灯すと、祭壇の中の空気が膨張し、その空気圧でタンクの中の水を押します。
押し出された水はもう一方の管を通りバケツに注がれ、その水の重みを利用して紐で繋がれた支柱が動くことで扉が開きます。
実際には錘(おもり)や滑車などの機構がもう少し複雑に仕込まれていますが、簡易的にはこのような物です。
ここで注目なのが、「水→水蒸気」という気化による膨張を利用したのではなく、熱した空気による空気の膨張を利用したという点です。
この時代には、ヘロンによって「空気を熱すると体積が増える」ことがすでに発見されていたのです。
お察しの通り、この装置は扉が開くまでにかなり時間がかかります。急いでいるならさっさと手で押し開けたほうが早い(笑)
この自動ドアは人が通りために扉を開ける物ではなく、参拝者を前に自動で動く扉を見せて驚かせる(神の力を見せる?)ために使われていたそうで、今で言えば大掛かりなイリュージョンマジックのような装置であったと考えられます。
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
ヘロンはこれらの他にも風力を動力とした自動演奏装置や舞台演出装置など様々な仕掛けを発明しており、ガリレオ・ガリレイとも名を連ねるほど有名になっていてもおかしくないほど画期的な装置を複数考案しています。
現代の私たちは熱力学や物理学を当たり前のように学びますが、当時の人々にとってはほとんど魔法のような物であったでしょう。
SF作家のアーサー・C・クラークが「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」との名言を残していますが、私たちが手に持つスマートフォンなんて物が古代の時代に持っていかれたとしたらまさに魔法の道具でしょうね。
昨今話題のライトノベル《Re:ゼロから始める異世界生活》では、主人公が異世界に携帯電話を持っていってしまうことでそれがミーティア(魔法具)として扱われています。
今後の科学技術の発展は私たちにどのような魔法を見せてくれるのでしょうか。
いやいや、ただ待っているだけではいけませんね。私自身も、そしてあなたも魔法具の開発者(発明家)になれるチャンスはあるのですから。
参考web
アイオロスの球(Wikipedia)
ヘロンの自動ドアに挑戦!