「自由」というのは多ければ多いほど良さそうに感じます。
手足を縛られて密室に閉じ込められているよりも大きな公園で走り回れることの方が”幸せ”であることはほぼほぼ間違い無いでしょう。
私たちは現在、一昔前に比べて(特に日本に住んでいることにおいて)比較的自由の多い環境で暮らしています。
学校を選ぶ自由、職業を選ぶ自由、今夜何を食べて、週末にどんな休暇を過ごし、どんな思想を持つのか。
もちろん法的な規制や金銭的な問題で何でもかんでも自分の思い通りななるような”自由”ではありませんが、そういった諸問題の範囲の中であっても私たちは日々数多の自由な「選択」を行っています。
さて果たして、その「選択」という”自由”は私たちを幸せにしていくれているのでしょうか?
「選択肢」は多ければ多いほど人は幸せになれるのでしょうか。
今回はシーナ・アイエンガーによる「選択の科学」という著書から「ジャムの実験」をご紹介します。
目次
・ジャムの実験
・実験内容の詳細と行動
・改善された試食コーナー
・複雑化するプレゼント選び
・「選択」という時間の消費
ジャムの実験
「ジャムの実験」は”人々の選択”について多くを研究しているシーナ・アイエンガーがスタンフォード大学の大学院生時代に行った実験で、当時の人々どころか今なお多くの人々を驚かせる実験結果を出しました。
実験は品揃えの数に定評のあるサンフランシスコのスーパーで行われました。
スーパーのオーナーはその品揃えの数こそが売り上げに直結していると考えていたし、消費者である私たちも可能な限り品数の多いお店を選ぼうとしますよね。
シーナ・アイエンガーはこの豊富な品揃えを売りにしたスーパーで試食コーナーを設けて「たくさんのジャムを試食したもらった場合」と「少ない数のジャムを試食してもらった時」のジャムの売り上げを比較します。
結果はなんと「少ない数のジャム」を試食してもらったときの方がなんと10倍も多くジャムが売れたのです。
より多くの選択肢がある方が自分の好みが見つかり購入につながるというのが”選択の自由”を基礎とした経営戦略であるはずなのに
実際には少ない選択肢である方が消費者はジャムを買って行ったわけです。
実験内容の詳細と行動
実験の内容は以下です。
・1瓶1000ドルもする比較的高価なジャムを対象とした。
・ジャムの種類は全部で28種類ある
・「多くの選択肢」の試食コーナーでは、その中から”いつものジャム”を選ばないように「イチゴ、ラズベリー、ブドウ、オレンジ、マーマレード」を除外した24種類
・「少ない選択肢」では「キウイ、ピーチ、ブラックチェリー、レモンカード、レッドカラント、スリー・フルーツ・マーマレード」と言った比較的選択されにくい商品から6種類ピックアップ
・試食してくれたお客さんには1ドル引きのクーポンを渡し、ジャムの売り上げに誘導する。
・しかし試食コーナーでは直接売らず、クーポンを持ってジャム売り場へいき、自分でレジへいかなければならなかった。
クーポンには「多くの試食コーナー」で配ったものか「少ない試食コーナー」で配ったものかがわかるようになっており、配った数とそれが実際に使われた数がわかるようになっていました。
さて、実験結果は先述の通り、「少ない選択肢」である方がたくさんジャムが売れました。
24種類のジャムを試食した人のうち実際にクーポンが使われた数はわずか3%であったのに対し、6種類のジャムを試食した人は30%ものクーポンが使われました。
その数なんと10倍ですよ。誤差の範疇を超えて明らかに売り上げが異なります。
このとき試食してくれたお客さんはどのような行動をとっていたのでしょうか。
「多くの選択肢」を用意された24種類もの選択を迫られた試食コーナーではお客さんは次々に瓶を手に取り、一緒に来ていた連れと「どの味が良いだろうか」と相談し、時には10分も迷った挙句
どのジャムが自分に合うかを選ぶことができずクーポンを使わずに店を去ってしまった。
対して「少ない選択肢」での試食コーナーでは、お客さんは最初から自分の好みがわかっているかのようにちょいと試食をしてから1分ほどでジャムの販売コーナーに現れて好みのジャムをカゴに入れて買い物を続けました。
改善された試食コーナー
品揃えの数はそのスーパーにとっての売りであり、お客さんとしても来店理由のひとつであることは間違いないようです。
しかし、その来客のうち多くの人が”見物客”であり購入につながる”顧客”となることが比較的少ないことが分かったのです。
確かに来客数が多ければ少ない”顧客”であっても一定の売り上げを生み出すことができるため多くの品揃えを作り多くの来客を作ることは非常に重要なのですが、
せっかく多くの来客があるのであればより多くの”顧客”になってもらうことも同じくらい非常に重要です。
そこでスーパーのオーナーはこれまで何気なく商品を紹介する目的で試食コーナーを設置していたのを改善し、特定の商品やブランドをピックアップして紹介するための試食コーナーとすることにしました。
複雑化するプレゼント選び
「ジャムの実験」では販売者と消費者という関係でしたが、多すぎる選択というのは日常において結構多くあります。
そのひとつが”プレゼント選び”です。
インターネットの普及により今や世界中どこの商品でも購入することができますし、一つの商品であってもメーカーやスペックの違い色の違いなど目が回りそうなくらい多くの”選択肢”を用意されています。
これが自分へのプレゼントであれば必要なものや好みが明確であったり時には妥協することで比較的容易に商品を選び出すことができますが
プレゼントを渡す相手が”本当は何が欲しいのか”を考えだすと多すぎる選択肢のうちどの商品を選ぶのか。考えだすとキリがありません。
そこに金額や配送日数などの障壁あることで選択肢は絞られるものの、「このプレゼントで本当に良いだろうか?」「まだ探せばもっと良いものが見つかるのでは?」と無限の選択へと引き戻されてしまうことだってあります。
シーナ・アイエンガーも「多すぎる選択」がプレゼント選びという本来ワクワクする行為を「面倒な作業」へと変えてしまってはいないかを言います。
「選択」という時間の消費
自由と言うのは時に人を束縛します。
そこで人を縛る縄となるのが「選択」による時間の消費です。
人生において重要な選択を行う場合には多くの時間を使ってしかるべきなのですが、どうでも良いような選択に時間をかけてはいないでしょうか。
どの選択が重要でありどの選択がとるに足らないものなのかは人によって異なるものですが、
自分にとってその選択は貴重な時間を使ってでも重要なことなのかを普段から意識しておくことは時間を効率的に使うことにおいて大切なことです。
余談ですが、私は服装に全く興味がありません(笑)
ですので、コンビニに行くような普段着や部屋着は同じようなものを複数持っておりタンスを開けたらとりあえずコレを着ると言うものが決まっています。
そしてちょっと遠くへ外出するときや人に会うときなど用の服も決まっており、オシャレをするときは着物(和服)を着ると言うことも決まっています。
そのため毎朝服を選ぶ時間と言うものがほぼほぼありません。
着物(和服)を着ると言うのも着物自体が好きと言うことはありますが、1番の大きなメリットはそれを着ているだけでちょっとオシャレに見てもらえると言うこともあります。
私にとって服装は生活の中で重要度が低く、服を選ぶと言う時間の重要度もまた非常に低いため、可能な限り時間を使わないという選択をしています。
しかしながら服装というのは社会的には(特に私のような自営業だと)重要度の高いものであるので、相手に対して失礼の無いような服装を予め見繕っておくことで社会的評価の損失を防いでいます。
社会生活において重要な選択と自分自身にとっての重要な選択というのは異なることがあるということも踏まえて、日常生活における”無駄な選択”を減らすことで”自由な時間”を増やせるかもしれませんよ。
”選択肢”という選択の多さもさることながら、”選択の回数”というものもまた多すぎると「自由」を奪っていくものなのかもしれません。
とは言え何かを選ぶ時にはやはりたくさんの選択肢がある方が楽しいですよね。選んでいる時間そのものが楽しかったりするわけで、だからこそ品数豊富なスーパーは”見物客”が多くなってしまうわけですが……。
今回紹介した「ジャムの実験」を行ったシーア・アイエンガーの著書「選択の科学」では日常生活の細々した選択から宗教的な選択の束縛、資本主義と共産主義の選択と言ったような大きな選択まで、”選択とは何か”を深く考えさせてくれるオススメの本です。
なんだか複雑な世の中だなぁと感じる方は「選択の科学」を一読してみると世界の見方が変わるかもしれませんよ。