重力とは何か。そしてブラックホールが持つ「事象の地平面」とは。

 先日「ブラックホールには”事象の地平面”は存在しないかもしれない」と言う研究発表がなされました。が、そもそもこの「事象の地平面」と言うものが我々には一般的に聞き馴染みがありませんよね。そこで、今回は「事象の地平面」とはなにかと言うことについて簡単に理解できるように紹介してみようと思います。

目次
・ブラックホールとは【図解】重力は空間の歪み光は質量を持たないが空間を伝播するブラックホールによって極限まで歪められた空間「事象の地平面」とはおわりに

ブラックホールとは

 そもそもブラックホールとは何なのか。非常に単純に言えば「光が脱出できないほど大きな質量と重力を持った天体」と言った物になります。イメージとしてはめっちゃ強い吸引力を持つ何でも吸い込む大きな穴のようなイメージかもしれませんが、ブラックホールも私たちが住む地球と同じ”天体”です。決して宇宙空間に穴が開いているわけではありません。

 そりゃそうだろと思われるかもしれませんが、ブラックホールを穴のような物だと考えている人たちは少なからずいて、その認識の原因の一つが”ホール”という名前であることもさることながらホワイトホールやワームホールの理論との関連でしょう。ブラックホールが何でも吸い込むと言うことに対してホワイトホールは何でも放出すると言う性質が考えられており、吸い込むブラックホール放出するホワイトホールワームホールを通じて繋がっていると言う仮説から筒状の穴を想像してしまう人も少なくないようです。

 しかしながらホワイトホールは現在のところ見つかっていませんし(存在を示唆するような観測はある)、もしホワイトホールがあったとしたらその性質上ビックバン以前(宇宙誕生以前)から存在し得ると言う矛盾が生じてしまうことからブラックホール以上に謎が多くその存在の賛否が大きく分かれる物なのです。

 話を戻しまして、ブラックホールの本質を「光が脱出できないほど大きな質量と重力を持った天体」とお話ししましたがその質量と重力が非常に大きいだけでブラックホールの成り立ちや性質は太陽や私たちの住む地球と大差ありません。基本的には球体状の物理的な天体なのです。

 しかし同じような天体とはいえ、ブラックホールの最大の特徴といえばその絶大な重力でしょう。「光ですら脱出できない」というのは例え話でもなんでもなく、ブラックホール化した天体からは実際に光が出てくることができません。

 私たちが”物を見る”という時には実際には”光を見ている”のであって、光が出てくることができないブラックホールはたとえ望遠鏡を使っても”見る”ことができません。そのため真っ黒な穴のようなイメージ図が描かれるわけです。

 2019年には8つの巨大な電波望遠鏡を使ってブラックホールが撮影されたことが話題になりましたが、これはブラックホール自体を撮影したのではなく周囲の電磁波を観測してその影を捉えることによりブラックホールの存在を観測的に証明することができたいということです。(この話もまた別の機会にしたいなぁ)

 ブラックホールはその絶大な重力によって光すらも脱出できないため私たちには見ることはできませんが、それは確かに存在することがわかっています。


【図解】重力は空間の歪み

 ブラックホールを語る上では欠かせないキーワード”重力”。普段あまり意識しませんが、私たちが地面の上に立っていられるのは地球の重力のおかげで、地球が太陽の周りをぐるぐると公転するのは太陽の重力による現象です。

 この重力という力についてはまだまだ謎が多く、重力を伝達するための素粒子として「重力子(グラビトン)」の研究も行われていますがまだ未発見の状態です。よく勘違いされますがこの「重力子(グラビトン)」が重力を生み出すものだと思われがちですが、仮説上の重力子(グラビトン)はあくまでも重力を伝達する媒介であって重力そのものではありません。音波が空気を媒介とした振動であるのと同じように、重力が重力子(グラビトン)を媒介にして伝達されているという説です。

 では重力そのものの本質とは何なのでしょうか。一般的な通説としては重力は空間の歪みによる現象だとされています。

 「空間の歪み」と一言で言われても意味不明だと思うのでわかりやすく図で説明したいと思います。

 まずピンと張ったゴム板のような物を想像します。

 ここに重いボールを乗せるとゴム板はその重さで凹みますね。

 そこへ、少し軽めのボールを斜めの方向から投げ込んでみると……

 そう、ぐるぐると回転しながら中心の重いボールの方へと”落ちて”いきます。

 これが重力の現象の本質です。この図の説明の場合、ゴム板という平面上(二次元)での再現でしたが実際の重力は三次元空間に広がって起こるのでこのゴム板が縦にも横にも斜めにも無数に存在していると考えてください。そして重いボールがゴム板をその重さで歪めたように”質量が空間を歪めている”のです。

 ここでまたややこしい話なのですが、図で説明したようなゴム板を重いボールが歪めるのは”重さ”によるものですが、空間を歪めているのは”質量”です。

 重さと質量の違いについて話すとまた長くなるので簡単な説明になりますが、重さとは重力が物体に与える力(運動)の大きさを指し、同じ物体でも地球と月ではその重力の違いから重さも変わります。しかし、質量は重力とは関係のない普遍的な”物質の量”です。人間が月に行けば体重は減ります(重さの変化)が、人間自体が小さくなったり(質量の変化)はしません

 重力が空間の歪みによって起こる力であると同時に空間を歪めているのは質量であるというのはブラックホールを理解するのにとても重要なことなので結構大切なキーワードとなります。


光は質量を持たないが空間を伝播する

 いやはやまたややこしい話です。「光は質量を持たない」というのは学校の理科の授業なので聞いたことがあるかもしれません。なぜ光には質量はないのかを話すとそれだけでまた記事が一つ書けちゃうくらいなので、今回のところはそういうものなのだと考えておきましょう。

 重さとは物体に与える力のことを指しますので光が質量を持たないということは光は重さを持たない、つまり重力の影響を受けないということになります。重量が大きからと言って光が重力に引き寄せられるということはないということですね。

 あれれ。おかしいですね。ブラックホールの重力が大きがために光が出てこられないのであれば、やはり光は重力に”引き寄せられている”のではないのか。

 おそらく多くの人は光(光子)がブラックホールの絶大な強い重力によって引っ張られることで”出てこられなくなる”様をイメージしていると思うのですが、光の性質上ブラックホールから光が出てこられなくなる現象はこのようなイメージとは大きく異なります。

 光の性質を理解するにはまず光は空間を伝播しているということが重要です。どういうこっちゃねんという感じですが、先ほどの図を再度使って解説してみましょう。

 緑色の球が光子、つまり光です。ピンと張ったゴム板に光子を投げ込んでみると同然真っ直ぐに進んでいきます。

 次に重いボールを乗せて歪んだゴム板に光子を投げ込むと…あら不思議、窪んだゴム板に沿ってグニャリと曲がり、重いボールを避けるようにして向こう側へ進んでいってしまいました。

 これがどういうことかと言いますと、ゴム板を”空間”とした場合、光は窪んだゴム板に沿って進んだだけで重いボールから直接的に影響を受けていないということです。

 この現象は、空間を大きく歪めるほどとても大きな質量を持った物体に対して光が進んでいった時に起こるもので、普段私たちが生活しているような環境ではほとんど関係ありません。マグカップの向こう側にライトを当ててもライトの光がマグカップの周りをグニャリと回り込んできたりはしません。(厳密に言えばマグカップほどの質量では光を回り込ませるほど空間を歪めていないだけで空間自体は微小ながら歪んでいる

 ここまでざっくりと理解できればいよいよブラックホールのお話しです。


ブラックホールによって極限まで歪められた空間

 いよいよブラックホールについてです。ブラックホールは太陽よりももーっともっと大きな質量を持つ天体がその活動が弱まったりすることで自分の重力で潰れてしまうことで生まれます。このような自分の重力で天体自身が潰されてしまうことを重力崩壊と言い、とてつもなく大きな天体の最後の形とも言われます。

 地球に比べれば巨大な太陽ですが、この太陽もおよそ50億年後には核融合反応が終わり寿命を迎えることで重力崩壊を起こして潰れてしまいます。しかし太陽はブラックホールになるほどの質量は持っていないため重力崩壊を起こしても最終的には白色矮星という形になるだけです。私たちの目の前にブラックホールがドーンと出来上がることはないので安心ですね。(まぁその時には太陽の膨張によって地球も爆散してますけどね。)

 ブラックホールの誕生過程は歴史上観測されていないのであくまで科学的な仮説ですが、ブラックホールの存在は先述の通り観測されていますので今のところ確実に存在すると言えるでしょう。

 重力崩壊を起こしてもなお強い重力を持っているブラックホールと化した天体は周囲の小惑星やガスを吸い寄せることで光のリングを纏った巨大な重力場となります。

 この巨大な重力場はいわば極限にまで歪められた空間と言い換えてもいいでしょう。極限にまで歪められた空間と言うのも意味不明なので、先の図解で出してきたような重いボールで歪められたゴム板のような図にしてみましょう。

 ほい。図にしてもよくわかりませんね。よくわかりませんがこのような図がよく用いられますし、実際これが一番イメージしやすい図です。重いボール(赤い球)だった場合にはゴム板がまだゴム板っぽかったですが、ブラックホールほどの質量を乗せるとゴム板が極限に窪みます。窪んだ部分は正にホールを思わせる空間の穴のような重力場です。そして恐ろしいことにこの穴は底無しです。

 ここに光子が入っても底がないので向こう側に出てくることができません。ずーっと落ち続けることになります。ずっと落ち続けると言うのもイメージしづらいのですが、これは物体のスピードが光の速さに近づくと時間が遅くなることに由来する現象で、光が脱出できないと言うことは光のスピードと同等かそれよりも早く落ちていると言うことになるので時間が極限にまで遅くなりほとんど止まった状態になることで底無しに落ち続けると言う状態になります。(自分でも何言ってるかわからなくなる)。

 こうした現象から、光がブラックホールから出てこられなくなるためブラックホール自身は真っ黒な穴のようにイメージされ、実際にそのように観測されました。


「事象の地平面」とは

 やっと「事象の地平面」のお話しです。なんだかアニメや漫画の敵が使う必殺技っぽいですよね。中二病がうずきます。

 先ほどブラックホールに向かって進む光はその歪んだ空間から抜け出せなくなると言う説明を行いましたが、全ての光が絶対に出てこられないわけではありません

 と言うのも、また図で説明したいと思います。

 ブラックホールに向かって進んでくる光は文字通り四方八方からやってきますが、簡略化してとりあえず左側からやってくる光にだけ注目してみましょう。

 大きく歪められた空間に対して光の進行方向もまた大きく歪められますが、その歪みの弱い場所(重力の比較的弱い空間)では光はブラックホールを避けるような経路で進んでいきます。光の進行経路の形状については非常に簡略化していますので語弊があるかもしれませんが、ブラックホールに近づいた全ての光がブラックホールに落ちていくわけではないと言うことがわかるかとは思います。

 光の進行経路がブラックホールから近ければ近いほど大きく歪んだ空間の影響を受けることになり、どこかの距離から光はブラックホールに落ちていく距離となって通り過ぎることができなくなってしまいます。そしてこの光が脱出できなくなるブラックホールからの最遠の距離のことを「事象の地平面」と呼びます。

 ここで言う「事象」とは「観測し得るか否か」と言うことを指し、光(電磁波)が出てこないと言うことはすなわち地球から実体を観測できないことを意味するため「事象の地平面」と呼ばれるのです。呼び方としては「事象の地平線」と言ったり「シュバルツシルト面」と言ったりもします。

 「シュバルツシルト面」はドイツの天文学者カール・シュバルツシルトがアインシュタインによる一般相対性理論重力場方程式の解から生まれた言葉で、非常に小さく同時に非常に大きな質量を持つ天体光が脱出できなくなるほど空間を歪めてしまうことを計算で導き出したことに由来します。ただ当時のこのシュバルツシルトの計算は誤りであったとされています。しかしながら、現象としては光の脱出できなくなる重力場が存在することから「シュバルツシルト面」と(カッコつけて?)言うこともあるようです。


おわりに

 いかがでしたでしょうか。私は小学生の頃から宇宙大好きだったのでうっすらとした知識はありますがもちろん専門家ではないので説明に誤りがあるとは思いますのでお許しを…。もっと正確に、もっと詳細に知りたい方はぜひ天文学の入門書などを読んでみてください。私の記事は入門の入門と言うことでご勘弁!

 ただ、最近「ブラックホールには”事象の地平面”は存在しないかもしれない」と言うニュースが流れた時に「まず誰が”事象の地平面”について知ってるねん」と思ったので「事象の地平面」についての記事を書いてみました。

 宇宙って広大で恐ろしいながらもとても身近で魅力的なテーマですよね。今後も宇宙関連の記事とかちょくちょく書こうかしら。

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