2024.10
[SIZE] 850mmx850mm(額含)
[MATERIAL] Ballpoint pen , Silver leaf
元自衛官である知人からの依頼制作作品。彼は自衛隊在籍中にレンジャー課程を修了し「レンジャー徽章」を授かった。今回の作品はその「レンジャー徽章」を図案モチーフとして制作を行った。
「レンジャー徽章」のデザインは以下のもの。
”堅固な意志”を意味する「ダイヤモンド」の周りを”勝利”を意味する「月桂樹」で囲んだ意匠である。
現在は新デザインになっており。デザインにほぼ変わりはないが、旧デザインでは月桂樹の実の数が8個、新デザインでは実の数が10個となっており、今回の製作では依頼主の授かった旧デザインの意匠をモチーフとした。
制作にあたり依頼主とは綿密な打ち合わせを行った。
彼は自身が自衛官であったこと、そしてレンジャー課程を修了したことに誇りを持っておりそれを記念した作品が欲しいとのことだった。
その誇りは「正義」というものの本質を感じさせるものであった。
月並みな言葉かもしれないが「正義の逆はまた正義である」という言葉。実際に銃を構え国を守る立場にあった彼の語る「相手の正義」と「自身の正義」。
そこにある葛藤・矛盾・ジレンマの中で彼は「客観的な”正義”というものは正直わからないかもしれない。けれども、自分の家族や友人を守りたいという気持ちは自分にとって”絶対的”なのだ。」と話してくれた。この言葉はまたジレンマを生むものだ。双方に家族や友人、守りたい物や人が在るのである。
彼との話の中での私の結論は”正義”の本質は相対的なものである。これも凡な結論ではあるかもしれないが、正義とはそういう物なのだ。
作品の全体構造は前述の通り「レンジャー徽章」をモチーフとしている。
月桂樹に囲われたダイヤモンド。このダイヤモンドの意匠にさまざまな意味を込めた。
作品に描いたダイヤモンドは、折り鶴の展開図(折り線)である。
日本において折り鶴は「平和」の象徴とされる。詳細は割愛するが、”折り鶴”が平和の象徴となったのは第二次世界大戦中に投下された原爆被害者の闘病生活がきっかけである。
この日本的な視点に依る”平和の象徴”を構図的に解体し、普遍的な平和の象徴にできないかと考えた。
折り線は見方によれば面の境界線を作り出す物である。しかしながら「不切正方形一枚折り」で折られた折り鶴には切り込みが無く、開けば元の一枚の紙となる。
境界線を取り払うことは難しいことではあるが俯瞰して見れば地続きであり一枚の紙なのである。薄っぺらで、裏表のある紙である。この”一枚の正方形”をこの世界だと捉えたとき、美しいダイヤモンドのような輝きが見えてこないだろうか。
人は皆、二律背反との葛藤の中で生きている。
それは自分と誰かという対立だけでなく、自分自身の内にある相反する感情や思考がいつでも何かをきっかけに反転する。
世の中に絶対は無いとよく言うが、瞬間の中で”絶対”を信じなければならない時もある。
引き金に指をかけねばならない時がある。
「堅固な意志」は光を通し、屈折し、分散することで美しい輝きとなる。
その輝きが人類普遍のものであるようにと私は願う。