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情報餓者

2024.04
[SIZE] 391mmx467mm(額含)
[MATERIAL] Ballpoint pen , Silver leaf

情報過多と云われる現代社会に於いてそれを貪り食う情報餓者たち。彼らにとって重要なのは質より量であり、同時にコスパとタイパである。そのような暴食は消化不良を起こすまでもなく垂れ流されて血肉に成らずにより飢える。

作品のモチーフとなっているのは山東京伝の読本『善知安方忠義伝』での一幕を描いた歌川国芳の「相馬の古内裏」である。「平将門の乱」によって廃屋になった屋敷で将門の遺児である良門と滝夜叉姫が妖術を用いて蜂起を企てる。それを知った源頼信の家臣である大宅太郎光国は彼らの妖怪を退治しその陰謀を阻止する。

『善知安方忠義伝』では複数の骸骨が大宅太郎光圀に襲い掛かるが、そのシーンを歌川国芳は一体の大きな骸骨として描いた。国芳がこれを描いたとき、同時代にオランダから輸入された医学書「ターヘル・アナトミア」の翻訳本である「解体新書」を参考にしたとされている。

この歌川国芳による図像は、昭和中期に児童書に創作された「餓者髑髏(がしゃどくろ)」の図像として多く引用されることになる。現代においては「餓者髑髏(がしゃどくろ)」の紹介として国芳の作品が紹介されることも多く、図像が持つ本来の意味は形骸化して文字通り血肉を失いつつある。

私が今これを描く時、「餓者髑髏」として形骸化した図像を流用しつつ、現代医学をベースとした写実的な骸骨を描くことで、情報が大量消費される社会への風刺と共にその情報を活用することで自身の血肉とする試みである。

『善知安方忠義伝』についての文献は原作を読まずにインターネットで情報を収集し、人の骨格を描く際にもインターネットで無料で利用できる医学系の3Dモデルを使用した。この工程は私の血肉になっていると言えるだろうか。否、私もまた大きな髑髏の一部なのである。