2021.01
[SIZE] 450mm×332mm
[MATERIAL] Ballpoint pen , Silver leaf
正義とは何か。悪とは何か。真実はどこにあるのか。それは偽物ではないのか。混沌とする社会情勢の中で渦巻く思い思いの正義と悪。私たちの辿り着く先に平穏は訪れるのだろうか。
見えない真実、隠された悪が翻弄するかの如く人々を惑わす陰謀論は後を絶たない。真実を知ろうとすればするほど陰謀と謀略の罠に嵌っていくかのような情報戦の世の中。
陰謀論者たちは表象の世界の影で暗躍する実力者たちが隠語やサインを用いて連絡を取り合い裏で世界を操っていると言う。それが真実であるのかもわからないままに、それを真実だと思い込み、それを真実だとして流布する。
陰謀や謀略が仮に真実だとして、その目的は何なのだろうか。
おそらくそれは「正義」である。正義の反対は悪であり、悪の反対は正義であるような「正義」である。
当作品《666鬼も角折る\m/》(読:ロクロクロクおにもつのおるコルナサイン)は陰謀論や悪魔信仰を日本的なアニミズムにおける鬼に置き換え、それが正義と悪の表裏一体のものであると主張する作品。
作品に向かって左側の2つの手はOKサインの形をしているが、これは悪魔の数字とされる「666」をシンボルとするハンドサイン。
作品に向かって右側の2つの手は人差し指と小指を立てた「悪魔信仰」のシンボルとされる「コルナサイン」と呼ばれるハンドサイン。
これら2つのハンドサインは秘密結社や悪魔信仰によって世界を動かそうとする者たちが暗に連絡を取り合うための暗号であると言われている。
大物の政治家や著名なアーティストたちがこれらのハンドサインを頻繁に用いているとして演説の写真やCDジャケットなどが陰謀論者によってよく取り沙汰されている。
彼らは本当に秘密裏に世界を動かそうとしているのだろうか。
陰謀めいた話をするのであればそれもあり得るのかもしれないが、実質的に彼らは実力者であり有力者でありカリスマであるのだから社会が彼らによって動かされているように見えるのは当然である。
そう考えると私には彼らによって社会が動かされていると言うよりも、彼らの窺い知れぬところで陰謀論者たちが勝手に踊っているようにも見えてしまう。
ともあれ、仮にそのような陰謀や謀略があったとしても彼らにとってもそれは正義であるに違いないとも思うのだ。
そこで陰謀を企む者たちとそれを疑う者たちが対立するのは「正義」と「悪」と言った完全な対立関係ではなく、思想信条の軽微な差異であり互いの「正義」は同時に「悪」であるような相反関係でしかない。
世界中の人々が同じ価値観を理解し合い、分かち合えるとは私は思っていない。
しかしながら、互いの正義を見せ合い、時に「鬼が角折る」ように自身の悪を悪と認め、より良い正義へと昇華させることは可能だと考えている。
そこにある思想信条を変えることなく自身の角を折ることはそんなに難しいことなのだろうか。
「正義」や「善行」を見せびらかすことひけらかすことを時に偽善だと揶揄されてもそれが真に善であると信じるのであれば隠す必要も隠れる必要も無い。
真に鬼が住うのは己が内なのだから。
福は内、鬼も内。