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【国立研究開発法人】日本の科学・技術を牽引するすごい組織5選ピックアップ!

 「国立研究開発法人」という言葉、あまり聞き馴染みがないかもしれませんが「理研」もしくは「理化学研究所」という機関をご存知の方は多いのではないでしょうか。

 国立研究開発法人」は日本で様々な研究開発を主に行なっている法人(組織)の枠組みで、国内に27個も存在しています。一時期”STAP細胞”の論文問題などで世間を賑わせました「理化学研究所(通称:理研)」も「国立研究開発法人」ひとつです。

 27の法人はそれぞれ専門分野ごとに国の行政機関である府省が管轄し、国の中長期的な科学技術の向上目標を達成することを目的としつつ、一定の自律性も認められており各研究機関が自主的に研究開発を進めることができるような仕組みになっています(職員は非公務員)。

 このような「国立研究開発法人」にはどのような組織があるのか、皆さんがよくご存知であろうものから個人的に好きなものまで、それぞれの組織が何をしているのかをいくつか簡単に紹介してみたいと思います。

目次
【理化学研究所】自然科学の総合研究所であり「富岳」も作った!
【産業技術総合研究所】未来のエネルギーはここにある!【物質・材料研究機構】物質を素材にする技術ここにあり!【海洋研究開発機構】海のことなら海面から地中まで任せろ!【宇宙航空研究開発機構】宇宙といえばJAXAでしょ!
他にもこんな国立研究開発法人があるよ

【理化学研究所】自然科学の総合研究所であり「富岳」も作った!

 まずは触れておかねばならないところでしょう。皆様ご存知の「理化学研究所」、通称「理研(りけん)」です。管轄は「文部科学省」で法人本部は埼玉県にあります。

 一時期はSTAP細胞論文問題でテレビを賑わせましたが、”STAP細胞”そのものの有無はさておき「理化学研究所」は具体的に何をやっているのでしょうか。

 「理化学研究所」は国立研究開発法人の中でも割と特殊な方で、ある意味では専門分野を持たないとも言えます。と言うのもその研究範囲は多岐に渡り「物理学」「工学」「化学」「数理・情報科学」「計算科学」「生物学」「医科学」などなどとても幅広い分野の研究が行われています。

 いわゆる”自然科学”という分野全般をほとんどカバーするほどの研究を一つの法人組織内でやっているわけです。

 webサイト研究成果(プレスリリース)を見てみると「量子コンピュータ」の研究をはじめ、「DNA」や最近よく耳にする「mRNA」の研究などの分子生物学磁場の研究や量子力学の研究まで本当に多岐に渡ります。

 こうした幅広い研究範囲もあって多くの大学や他の国立研究開発法人共同で研究を行うことも多いです。2022年1月のプレスリリースでは胃がんDNAレベルで研究する「ゲノム治療」の研究で複数の大学と「国立がん研究センター(こちらも国立研究開発法人)」などと共同研究チームを組んでいました。

 まさに日本の科学技術の総本山とも言える機関で、設立当時(1917年)ではアジア地域で初の基礎科学総合研究所でもありました。また、「理化学研究所」は「国立研究開発法人」の中でも「特定国立開発法人」というものに指定されており世界トップレベルでの研究成果を求められているところでもあります。

 理化学研究所の成果で最近のニュースでよく耳にする話題といえばスーパーコンピュータ「富岳」ではないでしょうか。実はこの「富岳」は「理化学研究所計算科学研究センター(兵庫県)」が富士通などの企業と共同開発したものなのです。スパコンの「富岳」の先代である「」も同研究センターと富士通の共同開発です。まさに世界トップレベルの研究開発ですね。

 「富岳」の計算能力を用いてくしゃみなどで飛び散る飛沫の広がり方シミュレーションしたことでマスクの着用方法やアクリルパネルの設置方法などの改善に大きく貢献したことが話題になりましたね。このシミュレーションは日本国内だけでなく海外のメディアでも取り上げられていたそうです。

 このスーパーコンピュータ「富岳」見学ツアーや計算科学研究センターの研究成果展示エリアなどもあるのですが、現在は例の感染症対策のため残念ながら中止しているとのこと。

 「理化学研究所」の多岐に渡る研究がきっと”withコロナ”の世界をより良いものにしてくれるだろうと思っています。


【産業技術総合研究所】未来のエネルギーはここにある!

 さて、聞き馴染みのないところが早速出てきたのではないでしょうか(笑)

 「産業技術総合研究所」は「経済産業省」の管轄にあり、法人本部は茨城県つくば市にあります。通称「産総研(さんそうけん)」と呼ばれるこの集団は主に「鉱工業の科学技術」の研究開発を総合的に行う研究所です。

 「鉱工業」というのは「鉱業(資源の探査や採掘)」と「工業」を総称した言葉。工業を行うための物資の探査・採掘に関する研究開発から工業的な製造における技術向上、そしてエネルギーの安定的かつ効率的な供給と確保を目的としています。

 簡潔にいえば「ものづくり」から「エネルギー」までを担う総合研究所なのです。

 「産業技術総合研究所」も「理化学研究所」に続き「特定国立研究開発法人」に指定されており、多岐に渡る総合的な研究開発が行われています。特に「産業とエネルギー」という分野に強く、昨今話題のSDGs(持続可能な開発目標)を達成するための日本における中枢と言って過言ではないでしょう。

 以前に当ブログで紹介した「超臨界CO2サイクル火力発電システム」の開発にも経済産業省エネルギー庁が関わっていることから「産業技術総合研究所」も少なからず関わっているのではないかと思われます。(直接的な参画の有無を見つけられなかったので定かでないです。)

 「工業」や「エネルギー」というと無機的な内容をイメージしてしまいがちですが、「バイオエネルギー」や「細菌と農業」の研究、また「人間工学」に基づくヘルスケア技術AI・ビッグデータなどの技術も研究しているなどなど「理研」に遜色ない幅広い分野の研究が行われています。

 昨今話題の「AI(人工知能)」研究も「産業技術総合研究所」の重要戦略の一つとして挙げられており、人とAI(人工知能)との関わり方サイバー技術(インターネットにおける情報技術)を通して現実世界(フィジカル空間)をより良く効率的に最適化するための解決方法を研究していたりします。

 私たちの日常の中でなかなか直接的に見聞きすることのなさそうな研究が多いですが、インターネットのようなサイバー空間から実社会の産業・工業まで幅広い産業活動を支えて地盤を作り、また先頭に立ってその技術開発を引っ張っていってくれるような存在です。


【物質・材料研究機構】物質を素材にする技術ここにあり!

 次に紹介するのは「物質・材料研究機構」。通称「NIMS(ニムス)」です。なんだか地味な名前ですが、実は今回の記事はこの「NIMS」を紹介したかったからと言って過言でないです(笑)

 物質・材料研究機構」は「文部科学省」の所管にあり、法人本部は茨城県つくば市にあります。この組織は名前を読んで字の如く主に「物質」「材料」についての総合的な研究がされています。

 「理化学研究所」「産業技術総合研究所」に並び「特国立研究開発法人」に指定されています。国立研究開発法人のうち”特定”に指定されているのはこの上記3つの組織だけです。

 では、「物質・素材研究機構」がどのような研究を行っているのか具体的に見ていきましょう。

 自然界に生きる生物の構造を解析し、その性質を模倣することで新しい技術や素材を研究開発する「バイオミメティクス(生物模倣)」というジャンルの研究があり、「物質・素材研究機構」はこれを得意な分野のひとつとしています。

 例えば、「タマムシ」という虫をご存知でしょうか。光沢ある緑色の虫光の当たり具合によって黄色や紫に発色するとても綺麗な虫です。その独特の発色から「玉虫色」なんて表現もありますね。タマムシの羽自体がそのまま装飾品として使われた「玉虫厨子(たまむしのずし)」などは歴史の授業などで教わったのではないでしょうか。

 この「タマムシ」の独特の色味は物体の持つ色素から出る発色ではなく表面の細かい凹凸や羽表面の層光を反射することで見える”構造色”というもので、この構造を真似た塗料「フォトニックシート」の開発に成功しています。

 この「フォトニックシート」が何の役に立つかというと、金属などの表面にあらかじめ塗っておくことで金属の歪みやヒビなどが色の変化でわかるのです。昨今、鉄塔などのインフラ整備が老朽化傾向にある日本ですが、今後このシートや塗料をあらかじめ塗布しておくことでその老朽化の早期発見できるのではと期待されています。

 他にも、水滴を弾く「里芋の葉」の原理をナノレベル(超ちっちゃい)で構造を解析し、それを科学的に模倣して(真似る)造られた樹脂製の”超撥水材料”を作ったりしました。

 もちろん研究内容はバイオミメティクスだけではありません。

 「水素社会」という言葉を聞き始めて久しいものですがなかなか実現しませんよね。実は”水素”は保存が非常に難しいのです。と言うのも元素の周期表を思い出していただければ分かるとおり”水素”は元素としては最も小さいもので、その小ささゆえに金属製の容器では金属物質の元素の隙間を縫うように通り抜けてしまいます

 その結果、水素の入り込んだ金属脆くなってしまい長期的に水素を溜めておくのが難しいのです。これを「水素脆性(すいそぜいせい)」と言って、脆くなるのはわかっているのですが”なぜ脆くなるのか”がよくわかっていません。

 そこで物質・素材研究機構」の研究者は水素が金属を”どのように浸透するのか”を観察することができる装置を開発し、水素脆性の仕組みについて研究が進められています。

 物質・素材研究機構」のことが好きすぎてまだまだ色々と紹介したいのですがひとまずここまでにしておきますが、その研究成果は秀でたもので材料分野における論文の引用数(研究成果の有用性の指標のひとつ)では世界で9位、日本国内では1位なのです(NIMSのwebサイトより2016年調べ)。また特許の出願実績もとても多く、白色LED電球の特許の主要な部分はこのNIMS(ニムス)が持っていたりします。

気になる方はぜひ「物質・素材研究機構」が運営する「まてりあるeye」と言うYoutubeチャンネルをご覧になってみてください。めちゃくちゃ面白いですよ。


海洋研究開発機構】海のことなら海面から地中まで任せろ!

 お次はこちら「海洋研究開発機構」、通称「JAMSTEC(ジャムステック)」です。所管は「文部科学省」で法人本部は神奈川県横須賀市にあります。

 比較的聞き覚えのあるところかもしれませんね。この「海洋研究開発機構」が運用する有人潜水調査船「しんかい6500」はよくテレビなどでも紹介されますし芸能人の方々が乗船したものなども見た覚えがあります。

 「しんかい6500」は有名どころで新発見の深海生物やその生きた姿の撮影に成功などエンタメ性の高い研究成果はテレビでも紹介されやすいのでしょう。およそ10年前に深海で生きたダイオウイカの撮影に成功した時も「海洋研究開発機構」が関わっていたりします。

 この組織が担う研究分野は深海の生物を発見しにいくだけではありませんよ!

 地球深部探査船「ちきゅう」は海底にドリルをブッ刺して人類未踏の”マントル”到達を目標にその地質の調査を行っています。他にも、地震発生時海洋プレートの動き津波の動きなども各種の調査船を用いて現地調査を行っていますし、スーパーコンピュータを使った”地球シミュレータ”で気候変動の予測なども行っています。

 日本周辺の海域はもちろん、世界中の海を回って地球規模での調査・研究が進められています。海底にはプレート変動による地震だけでなく海底火山もありますし、深い深い海溝もあります。宇宙よりも謎に満ちていると言われる深海から海面とその上空の大気まで全域をカバーすると言うとんでもなく広範囲に及ぶ調査を行っているんですね。

 国土の全面を海に囲まれた海洋国家である日本ですから「海洋研究開発機構」の担う調査・研究も広範囲に及び、海洋中の天然ガス石油鉱床などの資源の調査も行っており、化石燃料の調達やSDGsの面でも大きな役割を担っています。

 「海洋研究開発機構」はこのような研究結果報告をオンラインテーマパーク「JAMSTECパーク」と言う形で楽しく紹介してくれています。

 深海の生物から海洋プラスチック問題ペーパークラフト「スプラトゥーン2」とのコラボまで様々な展示を子供でもわかりやすく楽しく体験できます。(余談ですが私「スプラトゥーン2」が大好きで全ルールウデマエ”X”と言うほどやり込んでます。)

 子供たちの将来の夢によく「宇宙飛行士」が挙げられますが、JAMSTECパークをきっかけに「海洋調査したい!」と言う子供たちも増えるのでは?


【宇宙航空研究開発機構】宇宙といえばJAXAでしょ!

 本記事最後の紹介となるのは「宇宙航空研究開発機構」、通称「JAXA(ジャクサ)」です。所管は「内閣府」「総務省」「文部科学省」「経済産業省」が共同で行っており、法人本部は東京都調布市にあります。「理研」と並ぶ有名どころですね。言わずもがな、日本における”宇宙開発”の総本山であり国立研究開発法人の中で最大規模の法人です。

 2019年にアメリカが宇宙軍を編成し、2020年にはそれに付随して日本の航空自衛隊が「宇宙作戦隊」を作りました。宇宙軍と言うと「宇宙人とでも戦うのか?」と言いたくなるところですが、敵対となるのはやはり地球上の各国家間です。うーん、戦争というのは無くならないものでしょうか。

 とはいえ私たちの現在の生活は宇宙に支えられていると言っても良いものです。スマホで見る地図アプリや車についているカーナビは地球のはるか上空を回る人工衛星のGPSによって機能していますし、衛星通信を利用した離島の銀行ATM網もあります。

 最近ではトンガの海底火山噴火による初期の被害報告衛星通信で行われたりと、宇宙開発の中でも衛星の打ち上げ運用大変重要なものとなっています。

 JAXAはそんな衛星打ち上げに関して世界的に大変優秀で、人工衛星打ち上げ用の「HⅡAロケット」と「HⅡBロケット」の打ち上げ成功率は98%を誇ります。これは世界標準である成功率95%を大きく上回るもので最高水準の成功率であり、日本はもちろん世界中の人工衛星の打ち上げを行っています。

 衛星の打ち上げだけではなく、探査機「はやぶさ」劇的な地球帰還も大きな話題になりましたね。地球から1億キロ以上も離れた小惑星「イトカワ」へと旅してイトカワ表面の岩石を採取し地球に持ち帰るという大プロジェクトを紆余曲折ありながらも成功に収めました。

 「国際宇宙ステーション(ISS)」への物資補給のために運用される「宇宙ステーション補給機(HTV)」の開発も行っていて(通称「こうのとり」)、HⅡBロケットによる打ち上げ成功とともにISSへのドッキングにも成功しています。

 いやはや研究開発の事例を挙げ出せばキリがない。

 実のところロケットの打ち上げに関して日本は地理的に不利な場所にあります。ロケット打ち上げの時に一番効率が良いのが「赤道付近」と言われていて日本は赤道上から結構上の方に位置しています。そのためJAXAのロケット打ち上げ基地は鹿児島県の「種子島」や「内之浦」といった比較的南方に位置しています。

 「南に行けばいいなら沖縄に基地つくればいいじゃん!」とも思いますが物資輸送交通の便から鹿児島周辺ベターとされています。こうした地理的に不利な場所にあっても世界水準を上回る打ち上げ成功率なんですからその技術力たるや驚愕ですよ。


他にもこんな国立研究開発法人がある

 この記事では5つの国立研究開発法人を挙げて紹介しましたが、他にも量子物理学を研究する「量子化学技術研究開発機構」や建築や土木に関する「土木研究所」「建築研究所」、農林水産省所管の「国際農林水産研究センター」などなど全部で27の国立研究開発法人があります。

 以前に紹介した「ミルクティーで膵臓がんを早期発見する」と言う研究成果を出した「国立がん研究センター」も国立研究開発法人のひとつです。

 研究開発といえば”大学”が専門とするイメージですが、各法人はそれぞれ専門とする大学の研究室企業共同で研究を行っていて、まさに官・民・学が一体となって日本の科学技術を向上させてくれています。

 もし自分の気になる分野での最新の研究が見てみたいならそれぞれ関連する「国立研究開発法人」の運営するweb サイトからプレスリリース過去の研究成果などを探してみてください。基礎的な大発見から応用研究まで読み出すと楽しくてあっという間に日が暮れて朝になってしまいますよ(笑)


参考
国立研究開発法人「理化学研究所」
国立研究開発法人「産業技術総合研究所」
国立研究開発法人「物質・材料研究機構」
国立研究開発法人「海洋研究開発機構」
国立研究開発法人「宇宙航空研究開発機構」
Wikipedia「国立研究開発法人」


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