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「認知革命」:毒キノコ原因説−後編−

 「認知革命」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。この記事は「「認知革命」毒キノコ原因考察:前編」のつづきの記事となります。「認知革命とはなんぞや?」という方はぜひ前編の記事も読んでいただけると嬉しいです。

 それでは後編の始まりです。前編の記事ではホモ属(特にホモ・サピエンス)の好奇心と雑食性についてと、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの小脳の違いについてお話ししました。今回の後編ではホモ属がキノコを食べ始めたのではないかということを前提に毒キノコの摂食による幻覚症状が「認知革命」を革命たらしめたのではないかという考察を行なっていきます。


目次

前編
−認知革命とは
−ホモ・サピエンスの起源
−雑食化したホモ属、キノコを食べる。
−大きくなった小脳


後編
キノコ毒の主な作用と症状
身近な毒キノコ:シビレタケ
言語の発達と虚構、そして幻覚作用
幻覚で見えるキメラたち
まとめ

キノコ毒の主な作用と症状

 キノコには様々な毒性と症状があり、それらが簡潔にまとめられている表をご紹介します。

内閣府食品安全委員会「毒キノコによる食中毒にご注意ください」より引用

これらの症状の中で認知に関わる部分で重要となるのが「中枢神経麻痺系(幻覚剤様)」の欄です。主な症状には「幻視、幻聴、知覚麻痺、めまい、言語障害、酩酊状態、重症では精神錯乱、筋弛緩が起こり意識不明(引用)」が紹介されています。

 認知機能に大きな役割を持つと考えられている小脳。その小脳が相対的に大きいとされるホモ・サピエンスの認知機能に大きな影響を与えていることは確かでしょう。そしてその毒性をもつキノコにシビレタケが挙げられていますのでこのシビレタケを中心に話を進めていこうと思います。


身近な毒キノコ:シビレタケ

なぜシビレタケに注目したかというと、シビレタケ属のキノコは全世界に広く分布しており、定住性のネアンデルタール人はもとより移動性のホモ・サピエンスもいつでも食べられる機会があったことが予想されるためです。また、シビレタケ属は約400種存在しならが毒性のあるものは1/4程度しかない(wikipedia)ということもポイントです。

 ある特定の種のキノコは食べれば必ず毒に当たるというのであれば、その情報を共有した集団はそのキノコを全面的に避ける傾向が強くなるであろうことが考えられます。しかし、1/4程度しか症状が出ないというのであれば果たしてそのキノコが原因であったのかという結論に行き着くのが難しいであろうと思うわけです。

 そしてシビレタケを含む所謂マジックマッシュルームと総称されるキノコ類での幻覚作用は重症化せず死亡例も少ない(wikipedia)と言われています。このことからシビレタケ類を常食する集団があったとしても集団で同時に死亡することは少なく、集団で分けて食べたのであれば中毒症状も軽く済んでいるとも考えられます(キノコばかりを食べていたわけではないので)。ただし、毒性のあるシビレタケ2〜3本程度で中毒症状は出るため案外簡単に幻覚作用を起こすことはできます。

 実際にはどの様なキノコをどのくらいの量食べていたかは分かりませんが、シビレタケを例に挙げるだけでも雑食化したホモ属が毒キノコを常習的に食べていた可能性は高いであろうと考えられます。
 ※自然にどこにでも生えているからといって幻覚作用目的に同種やそれに属するキノコ類を故意に採取、所持、使用することは禁止されていますので「ダメ。ゼッタイ。」です。


言語の発達と虚構、そして幻覚作用

「ライオン人間」の像
サピエンス全史(上)より引用

サピエンス全史 (上)」ではホモ・サピエンスの言語能力の高さとその柔軟さによる虚構の共有が大きな集団を作り出し、その他のホモ属の駆逐の一因だと述べられています。

 ここで語られる虚構とは「噂話」に始まり「神話」にまで及ぶもので、今目の前で起こっている事実ではなく他の誰かから聞いただけの情報や憶測、それどころか存在しない精霊や守護霊などといったスピリチュアルなものまで創造し共有していたというものです。

 これは著者の想像上の話ではなく、実際にドイツのシュターデル洞窟で「ライオン人間」という頭がライオンで体がヒト型の像が発見されています。この不思議な像は3万2000年前のものとされ、このことから3万年以上も前のサピエンスが空想上の生き物を創造し共有できたという事実が見て取れます。

 著書ではこのライオン人間像について”おそらく宗教的な意味を持ち……”と語られていますが、私としてはこの半人半獣のライオン像が特別な扱いを受けていた訳ではなく、他の壁画や動物像と同じ文脈で(宗教的側面も含めて)作られたのではないかなと感じました。

 こうした想像力や創造力を持った原始ホモ・サピエンスが集団で幻覚作用のあるキノコの中毒を起こしていたらと考えるだけでも面白いのですが、むしろこうした空想上の生き物を生み出すことができたのはまさにキノコの幻覚作用ではなかったのでしょうか。

 壁画といえば有名なのが「ラスコー洞窟」ですが、そこでも「トリ人間」や「精霊」のような半人半獣や空想的動物が描かれていたりします。ラスコーのような洞窟壁画は陽の光の入らないような洞窟のかなり奥に描画されたものが多く、おそらくは火を焚くなり松明を燃やすなりして光を得ていたはずなのでかなり酸素の薄い空間であったことが予測されます。そうした洞窟の環境下で酸素濃度が10%以下になると毒キノコの中毒のように幻覚症状が起き始めます。洞窟内で儀式的なことが行われていたとする説もあり、やはりこれらの壁画も”空想した”というよりも”それが見えた”とするほうが私としては納得ができます。

 余談ですが、洞窟壁画については「ヒトはなぜ絵を描くのか /フィルムア-ト社/中原佑介」という著書に様々な言説が紹介されていて面白いのでおすすめです。


幻覚で見えるキメラたち 

 3万2000年前の洞窟遺跡から「ライオン人間」という半人半獣の空想生物が見つかったというのは「認知革命:毒キノコ説」を考える私としては納得できるものでした。

 先ほど毒キノコの例で挙げたシビレタケをはじめとするマジックマッシュルームの毒成分は「シロシビン」という物質で 、このシロシビンを投与したヒトの脳をfMRIでスキャンすることで脳内のネットワークを可視化したという記事を紹介します。

幻覚剤が脳のネットワークに何を起こすのか:fMRIスキャンで視覚化すると(WIRED)

 図だけ見てもよくわからないですが、端的にいうと正常時には結びついていない物事のネットワークがシロシビンを投与されると複雑に関連しあい連結するというもののようです。これによって音に感触を感じたり匂いに形を感じたりなどといった謂わゆる共感覚の幻覚作用が生まれるのだと言います。

 こうしたネットワークの複雑で無作為な繋がり方がモノを見て認識するということに対して起こった場合、視覚的にキメラが生まれるのではないかというのが私の仮説です。ライオンの頭とヒトの頭は別物ですが、生物の体という意味では同じ「頭」であってシビレタケの幻覚作用によって入れ替わって見えてしまうこということが起こり得るのではないかと考えました。

 半身半獣や獣人、多種多様な生物が合体したキメラ的な神話生物や伝承は世界各地で多数あり、もちろん日本でも「古事記」にすら登場します。これらのキメラ的生物はアニミズム信仰の延長と考えられているようですが、その根源がまさに3万2000年前の「ライオン人間」というわけです。

 「サピエンス全史 (上)」の中でも「ライオンは我が部族の守護霊だ」という虚構の例が出てきますが、もしかするとそうした話は嘘でも虚構でもなく毒キノコの幻覚作用によって「ライオン人間」を”本当に見た”からこそ生まれた虚構だったのかもしれません。


まとめ

以上が「認知革命」:毒キノコ説でした。初期のホモ・サピエンスが突如として虚構を作りだしそれを共有できたというのがなんとも納得のいかない部分だったので、自分なりの解釈でその原因を探ってみました。

 
 現代においてもコカインをはじめLSDやMDMAなどの幻覚症状を起こすドラッグがありますが(もちろん違法ですよ)、世界的に有名な某社のCEOや名作映画を生み出した監督、発明家や医者、政治家、そしてアーティストなどなどが過去に服用していたことが自伝やインタビューなどに残っています。ドラッグや覚醒剤を肯定する訳ではありませんが、彼らのようにドラッグを使って”幻覚を見る”ということが時に新しい発見や価値を生み出すきっかけになっている側面もあるようです。

 もし初期のホモ・サピエンスが毒キノコの幻覚作用によって”目覚めた”のであったら、未だに麻薬や覚醒剤などのドラッグが世界中で蔓延し撲滅できない理由が遺伝的に受け継がれた嗜好によるものなのかもしれないと私は感じたのでした。

 最後にもう一言、「ダメ。ゼッタイ。」

薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ

それではまた。


参考になるおすすめ本


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