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【雑談】「読解力が下がった」という話を深掘りしてみる。

 朝のテレビで話題になっていた「日本の生徒の読解力が下がっている」というニュースが気になり、今日たまたま時間があって色々調べていたらなんかテレビで言ってたことと印象が違うなぁという感じだったので私見を含めて記事を書きました。
 かなり思いつきで書いた記事なので色々と不備はあると思いますが、ご容赦くださいまし。

 先日、経済協力開発機構(OECD)が行なっている国際的な学習到達度調査(PISA)2018年調査の結果が発表されました。これについて「日本の読解力が15位に転落!」なんてテレビなんかで騒がれていますね。
 2015年調査では日本の読解力は8位でしたから7ランクも下がったわけですね。なんだか衝撃的に伝えたい気分もわかります。ただ、昨今のメディアは私たちに対して本当に有益で価値のある情報を伝えようとしているのかちょっと首を傾げたくなるようなことが多いものですから、あんたらの所為じゃないのかと言いたくもなりますが、そんな冗談はさておき。私自身の”読解力”でこの学習到達度調査についてちょっとだけ調べてみようかと思いました。

目次
経済協力開発機構(OECD)とは
学習到達度調査(PISA)とは
日本の生徒、読解力が15位って実はそんなに落ちてないんじゃ?って話。
加盟国ランキングでは11位
PISAは上手いことやってる
PISAにおける「読解力」の定義と日本生徒の弱い部分
足りないのは「読解力」ではなく「作文力」ではないか
文科省はこの結果をどう見たのか
情報を能動的に集め、考えない人たち

経済協力開発機構(OECD)とは

 まずはどのような団体がこの調査をしているのかというところから。

OECD(経済協力開発機構)のwebサイト
http://www.oecd.org/tokyo/home/

 OECDの前進は1948年に第二次世界大戦で疲弊したヨーロッパ経済を活性化させるためアメリカによるヨーロッパ復興支援の受け入れを整備する機関「欧州経済協力機構(OEEC)」だったそうです。
 その後、1950年アメリカカナダOEECに準加盟し、1961年にはヨーロッパの復興ひと段落ついたということでヨーロッパ西側諸国と北米の対等な貿易関係を結び協力して発展していこうということで現在の「経済協力開発機構(OECD)」となりました。その3年後、1964年にはアジアやヨーロッパ共産圏の国々も加盟しこの年に日本も加盟しています。第二次世界大戦終戦1945年ですから戦後間もない時期に日本も早々に加盟していたのですね。


学習到達度調査(PISA)とは

 そんなOECD義務教育の終了段階に当たる15歳を対象国際的に学力の調査を行なっているのがこの学習到達度調査(PISA)です。国際的に調査することによって各国の教育方法の改善し標準化する研究をことを目的としています。この調査は1997年から調査プログラムの開発が始まり2000年に第一回の調査が行われて以降3年毎に調査が続いています。

 調査内容は「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野で行われ、3年毎に中心分野となる調査が入れ替わります。そして今回話題となっている「読解力」が中心分野となったのが2018年の調査でありました。(ただし、他2分野が全く実施されあいわけではなくあくまで”中心分野”として一つの分野がピックアップされて調査されている感じ。)

これら、経済協力開発機構(OECD)学習到達度調査(PISA)についてもっと詳しく知りたい方は、みんな大好きwikipediaを参照ください。

経済協力開発機構(OECD)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8D%94%E5%8A%9B%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%A9%9F%E6%A7%8B

学習到達度調査(PISA)
https://ja.wikipedia.org/wiki/OECD%E7%94%9F%E5%BE%92%E3%81%AE%E5%AD%A6%E7%BF%92%E5%88%B0%E9%81%94%E5%BA%A6%E8%AA%BF%E6%9F%BB


日本の生徒、読解力が15位って実はそんなに落ちてないんじゃ?って話。

 さて、そんなOECDによるPISAですが(アルファベットばっかりで目が回る。)、記事の初めにも書きました通り日本の「読解力」の順位が2015年の調査での8位から2018年の調査15位まで落ちました。あな嘆かわしや。と言いたいところですが冷静にその順位表を見てみましょう。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より抜粋

確かに、日本15位ですね。何なら数学的リテラシーでも6位科学的リテラシーでも5位とかなり高い順位ではあるものの、上位3位北京上海シンガポールマカオといったいわゆる中華圏の国や地域が占めています。おそロシア!いや中国か。これらの国や地域はOECDに加盟していないので灰色で塗られた枠になっています。が、注目すべきはこれらの国や地域の「一人当たりのGDP」です。2018年の「一人当たりのGDP国・地域別ランキング(※)では香港が18位シンガポールが8位、マカオは何と3位です。対して日本は26位でした(単純なGDP(国内総生産)では日本は世界3位)。
※世界経済のネタ帳「世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング」https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html より

 「一人当たりのGDP」はGDP(国内総生産)をその国や地域人口で割った数値ですので、一人一人がどの程度裕福かという指標とされることもあります。このことから香港シンガポールマカオなどに住む人たちは他の国に比べて経済的に余裕があるということがわかります。そして中華圏といえば日本以上の学歴社会。日本国内ですら都市部に住んでいるかや保護者の経済的な余裕や環境子供の学力に影響を少なからずしていると言われていますから、超学歴社会の富裕層ともなると子供の養育教育にかける費用や環境もまた違うのかもしれません。

 少し言い訳がましいかもしれませんが、日本を含めた他の国々のように田舎から都市部まで持つようなより大きな国平均値都市国家のような国や地域とを比べて一喜一憂するのも少し大げさな気がしました。

 少し語弊があるかもしれませんが、日本で言えば首都圏であり日本の経済の中心である東京だけの調査抜き出してしまっているような感じではないかと。


加盟国ランキングでは11位

 比較的小さいとは言え地域全体が裕福な国と比べられても〜って話ではありますが、OECD加盟国みのランキングでも日本は11位で、前回2015年調査の加盟国ランキング6位から順位を落としています。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より抜粋

 実際の加盟国ランキング表がこちら。ここで注目なのは、ランキング表内にある青い点線の枠と表の下にある「信頼区間」数値

 PISAで行われるテスト標本調査と言って、全体の調査対象者の中から偏りのないように選別された一部の者が調査を受ける方式ですので全数調査(対象者全員が調査を受ける)とは誤差があるんですね。ですので信頼区間と言ってこのぐらいの数値の幅が推定されますよって数値を出すわけです。それで言えば最上位で7位前回調査(2015年)の6位と比べて誤差の範囲くらいです。

2015年調査のランキングと信頼区間も見て見ましょう。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」より抜粋

 前回調査の6位というのも信頼区間を見ると最低点を取っていれば2〜3ランクは下に落ちますし最高点を取れば3位です。要するに誤差の範囲が3位〜9位までランキングに幅が出るわけで、3位を取っていれば読解力向上!と喜ぶでしょうし、9位であれば諸外国に比べて〜とネガティブな印象になるでしょう。


PISAは上手いことやってる

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より抜粋

 もう少し詳しく2018年の表を見てみます。信頼区間を再度見ると7〜15位くらいまでの幅がある上に、各国の点数が1〜2点上下するだけでランキングが乱高下することがわかるかと思います。単純な順位付けだけで順位がめちゃくちゃ落ちたー!と朝からテレビで騒ぐほどのことでもないんじゃないかと思っちゃいました。

 同じ理由で、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」については日本は近年かなり上位であり、数学的リテラシーについては2年連続1位です。これも単純に喜ばしいことだというよりも信頼区間の点数を含めて点数が少しでも低ければどんどんと順位は落ちてしまいます

 そのくらいに各国の教育水準というのは高いレベルで均衡していると見ることもできますし、学習到達度調査(PISA)の目的とするところの国際的な学習調査の比較による教育方法の改善と標準化という点ではいい線行ってるんじゃないかと思いました。

 確かに日本の順位は落ちてしまいましたが、世界各国各地域の教育水準やレベルが上がってきたということであればそれはそれで良いことなんじゃないかなと思うんです。そこでまた順位というのは良い意味で競争心を煽りますから、各国慢心せず教育に力を注いでもらえることは単純にありがたいことだと思います。

 PISAによる調査内容方法各実施年によって変更されていることが多く、単純に2000年の調査結果と2018年の調査結果とを比較して世界的に学力が向上しているという見方もできないのですが、僅差によるランキング付けを見て感じた私の印象はそんなところです。


PISAにおける「読解力」の定義と日本生徒の弱い部分

 とは言え、ランキングが落ちているのはやはりなんだか悔しい。ランキングにこだわらずとも学力を上げるに越したことはない。ということで、今回大きく順位を落とした「読解力」の何が足りていなかったのかを自分なりに調べて見ました。
 PISAでは「読解力」の要素を以下のように定義しているようです。

①情報を探し出す
−テキストの中の情報にアクセスし、取り出す
−関連するテキストを探索し、選び出す
②理解する
−字句の意味を理解する
−統合し、推論を創出する
③評価し、熟考する
−質と信ぴょう性を評価する
−内容と形式について熟考する
−矛盾を見つけて対処する

このような内容のうち日本の生徒が調査の平均より低い項目が調査結果として出されています。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より抜粋

図表の赤枠部分を書き起こしますと、

必要な情報がどのwebサイトに掲載されているか推測し探し出す【測定する能力①情報を探し出す】

情報の質と信ぴょう性を評価し自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する(自己記述)【測定する能力③評価し、熟考する】

以上の2項目PISAにおける定義づけによるところの「①情報を探し出す」「③評価し、熟考する」という部分が弱いということになります。

 テレビなんかでは読解力の”低下”を「SNSの普及が云々」とその原因をお話しされている方もいらっしゃいましたが、SNSの普及なんて世界的なものであって日本だけのものじゃないですからね。さらに言えばネット社会において「情報を探し出す力」という点では手元にあるスマートフォンで何でもかんでも調べてしまう人たちばかりですから能力的には逆に高いのでは?とも思いたくなります。これについては最後に少しお話したいと思います。


足りないのは「読解力」ではなく「作文力」ではないか

 各国のランキングを見る限り、日本は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」については首位争いをするほどの上位です。ここで疑問なのが、”読解力”がなくても数学や科学の問題が解けるのか?ということ。つまり設問を読み解く読解力がなければ数学にしろ科学にしろ回答が難しいと思うのです。なんかは小・中学生の頃のテストで算数の文章問題が大嫌いで問題すら読まないということもしてましたからね。

 となると、数学科学のできる15歳の彼らは「読み解く力」というのは結構な水準で持っていて、他に何かが足りていないのではないか

先ほど日本の生徒の正解率の低かった問題の一例のうち、

情報の質と信ぴょう性を評価し自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する(自己記述)【測定する能力③評価し、熟考する】」 

というものがありました。
ここで気になるのが、「(自己記述)」という回答の方法です。
実際にどのような問題が出ているのか見てみます。

国立教育政策研究所「2018年調査問題例 」より抜粋

 こちらは2018年調査問題例として国立教育政策研究所に公開されている問題です。

 問題例ですので実際の調査で出題された問題とは異なりますが、「問題形式」が「自由記述」とあり解答欄が空欄ですね。

 自分で文章を書き込まなくてはならない問題になっています。問題例では「読解プロセス」が「理解する」になっていますが、実際に出題された問題では「評価し、熟考する」という要素が「自由記述」の問題となっており、これが調査平均以下という結果になっています。

 昨年度までの調査結果調査の分析内容が異なるため単純に比較できず、本当に自由記述で日本の生徒が引っかかっているのかは断定できませんが、数学科学の問題を高い水準で解けているということから「読解力」というよりは「作文力」問題があるのではないかという印象を受けました。


文科省はこの結果をどう見たのか

こちらが今回の調査結果に対する文部科学省国立教育政策研究所の出した見解です。問題となっている「読解力」の項目について見て見ましょう。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」より抜粋

 やはり「◆読解力の自由記述形式の問題において、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明 することに、引き続き、課題がある。 」指摘されていますね。しかも”引き続き”ということは少なくとも前回も同じように自由記述問題があまりよくなかったのでしょう。テレビワイドショーでこの問題を取り上げるのならせめてこの部分くらいは取り上げて論点にしてもらいたいものです。(なんせこの資料、PDFの1ページ目ですからね。)

 もうひとつこの資料で注目すべき点があります。2012年日本は読解力が1位になってるんですよ。根拠のない余談ではありますが、この時期って長文のブログや日記短文のSNSと置き換わる転換期だったと記憶しています。もしかしたら自分の考えや感情を今よりも長文で書いていた時期と被るんじゃないかなと。


情報を能動的に集め、考えない人たち

 この10年足らずで急速にネット社会になって身の回りにある情報量はそれ以前に比べて膨大に膨れ上がっているものと思います。

 私が小学生の頃(1990年代)は携帯電話がサラリーマンに普及し始めた頃ですし、中学生になった頃に手に入れたケータイiモード(いわゆる2G)で遊んでいた程度

 インターネットはあったものの家に帰ってパソコンの前に座らなければなりませんでした。その頃と比べれば今は小学生がスマホでYouTubeですからね。その情報量たるや比べ物になりません

 私の高校生ぐらいの時は「最近の若い奴らは政治を知らん」だのよく言われましたが、最近の若い子たちは結構政治経済について知っています。それがデマの情報かはさておき、全く興味の対象外といった時代ではないと私は感じています。

 そんな時代を生きている現在15歳前後の彼らがどのようにそれらの情報を収集しているのか。ズバリ「まとめサイト」と「YouTube」です。

 この二つのコンテンツは情報を収集するにはめちゃくちゃ便利で、なおかつなんだか頭が良くなった気さえしちゃいます。特に「まとめサイト」と総称されるコンテンツは掲示板などに書き込まれたコメントや討論内容を非常に見やすく読みやすく”まとめて”記事にしてくれるので、流し読みするだけでもなんだかわかった気になっちゃうことがあります。

 さらにYouTubeでの昨今の流行りは歴史上人物紹介事件事故紹介生物科学雑学系都市伝説系までちょっとした知的好奇心を満たしてくれて誰かにさらっと話したくなるような内容の動画があふれています。

 これらのコンテンツは一見能動的に自分でアクセスして自分で動画を探し、自ら情報を収集しているように見えてその実かなり受動的です。というのも、それらの内容はすでに誰かの編集が加わっており、討論をしているのは記事や動画の中の人たちであって自分はそれに賛同するか否定するか程度に大抵は止まります。その内容が本当に事実なのか、自分はそれをどう感じどう考えどう話すのかなどはほとんど考えることがありません

 これらは「知ったつもりになれる」「考えたつもりになれる容易に知的好奇心を満足させてしまう受動型の情報なのだろうと私は思っています。(私もまとめサイトやYouTubeがめっちゃ好きでめっちゃ見ますけどね)

つまるところ、何かの問題に対して誰かの答えを先に見てから自分の考えを構築していくという思考形式になっているのではないかと思うのです。私としては本来、何かの問題に対して自分はどう思うかを構築し、それを人に話し賛否意見を得てさらに自分の考えを構築していくことが能動的な情報の集め方であり、ひいては情報を探し出す力となるのではないかと思います。


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