培養された脳と機械の脳

 先日気になる記事を読みまして、一人でひっそりと興奮していました。
アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが人工的に培養された小さな脳からヒトのものに類似した脳波を検出したというのです。

詳しくは以下の記事などからどうぞ
私は英語が読めないので日本語記事から紹介しますね。

【工培養された小さな脳がヒトと類似した脳波を発生】(Newsweek日本語版)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12908.php

【実験室で培養の「ミニ脳」に神経活動、人の脳に類似 米研究】AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3242190

目次
脳オルガノイド
脳半球接続テスト
人工脳と機械脳の融合は可能か?

脳オルガノイド

10ヶ月が経過した脳オルガノイド Muotri Lab/UCTV(Newsweek日本語版より引用)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12908.php

この写真がその培養した小さな脳だそうです。
なんだかプニプニしてそうで可愛らしいですね。
 写真は10ヶ月ほど培養したものですが、脳波が見られるようになったのは培養から2ヶ月程度の頃。最初は同じ周波数でまばらに発せられた脳波が、成長するにつれて異なる周波数で定期的に発せられるようになったのだとか。

 この成長の軌跡を初期発達段階のヒトの脳波パターンと比較したところ、この脳有賀のイドの発達期間について予測を正確に行うことができ、このプニプニした小さな脳(脳オルガノイド)も胎児の脳の成長軌跡と同様の発達をすると見られるようです。

 オルガノイドというのは試験管内で3次元的に作られた臓器のことで、本物の臓器よりも小型で単純な作りではあるものの本物の臓器と同じような解剖学的構造を持っている人工培養臓器のことです。色々な臓器のオルガノイドも昨今話題のES細胞やiPS細胞から培養され、今回の脳オルガノイドはiPS細胞から作られたそうです。(すげぇなiPS細胞)

素人の私としては「はーすごいなぁ!」以上の感想が出てこないのですが(笑)、自閉症やてんかん、統合失調症などの疾病の解明に役だれたいとのこと。ヒトはついに脳神経の外科的手術まで可能にしてしまうのかとワクワクしてしまいます。

 ただ、脳を培養するとなると倫理上の問題が付きまといます。現に「この脳オルガノイドに意識はあるのか」などと言った話もちらほら見かけます。研究者のムオトリ氏の話では今の所は実際の脳活動とは関係のない脳波であることから意識などは発生していないとのこと。さらにこの脳オルガノイドは10ヶ月で発達が止まってしまいその理由も明らかになっていません。

 発達が止まってしまう理由に考えられるのが血管新生(つまるところ内部に栄養を送るための血管)がない、感覚系の入力刺激がないなどの仮説があるようで、確かに胎児の10ヶ月ともなれば出産直前であり手足や目や耳などの感覚系が揃っている頃でもあります。出生後も外部から刺激を得ることで外界を認識と脳の発達が並行していくことを考えると10ヶ月の脳オルガノイドでは私たちが知覚しているような”意識”には到達していないのだろうなと感じます。”意識”というものの定義や発生時期についての議論は様々あるもののフランケンシュタインほどには全然至っていないということでしょう。


脳半球接続テスト

これらの記事を読んで頭に浮かんだのが渡辺正峰氏による「人工意識の機械・脳半球接続テスト」という実験構想です。この実験についての構想が述べられている本を紹介しながら話を続けていきたいと思います。

 渡辺正峰氏の著書「脳の意識 機械の意識」で語られるこの「人工意識の機械・脳半球接続テスト」と言う実験構想は、仮に脳機能を高度に模倣可能な機械が実現した場合に実物の脳の半球(右脳ないし左脳)と接続した時に意識に同一性が得られるかという実験です。

 この実験の前提に脳の特性を理解しておく必要があります。一例を同著から紹介します。脳はご存知の通り右脳と左脳に別れておりそれぞれ左半身と右半身を機能的に司っています。それらを脳梁が繋いでいることで一つの脳として機能し、私たちは自分の”単一の意識”の下で行動できています。

 過去にこの脳梁をてんかんの治療として切ってしまうという手術(脳梁離断術)が行われました。すると、脳を二つに分けられてしまった患者には右手がシャツのボタンを付けるそばから左手がボタンを外してしまうなどと言った行動が見られるようになります。この患者になぜこのようなことをするのかを尋ねると「右手でボタンをかけても、左手が”勝手に”外してしまう」と言うのです。

 これは右半身を司る左脳に言語野(発話と言語理解を司る脳の部位)が集中しているためで、言語によるコミュニケーションでは右半身で起こっていることしか話すことができないことが原因です。左手が”勝手に”ボタンを外してしまうと言うことからも見て取れるように左手がボタンを外すのは”自分の意識ではない”と自覚しています。

渡辺正峰著「脳の意識 機械の意識(中公新書)」より引用

 言語によるコミュニケーションでは左半身で何が起こっているのかがわかりません。そこで右脳は正常に機能しているのかを確かめる実験が行われました。行動が言語化されない左目に写真を見せて同じものを左手で取るように指示するだけの簡単な実験です。すると左手は難なく写真と同じものを取ることができました。右脳に残された少々の言語野でも言語理解ができる程度の能力を持ち合わせていたようで言葉で意思表示をすることはできなくとも行動で示すことができることが確認されました。対してこの時(左目には写真を見せ、右目には何も見せていない状態で)被験者に「何が見えたか」を問うと「何も見えない」と返答されます。つまり脳梁を切断すると右脳と左脳で意識が別れている状態担っていることがわかります。

 以上のことから脳を脳梁で断絶すると右脳と左脳で別々の意識が発生し、裏を返せば脳梁によって右脳と左脳の意識を繋いで単一の意識としていると言うことです。右脳と左脳にはそれぞれに得意分野はあるものの基本的な機能に違いはありません。と言うことは意識にとって必要なことは右脳と左脳を含めた脳全体ではなく脳の持つ基本的な機能構造が重要であると言えます。

渡辺正峰著「脳の意識 機械の意識(中公新書)」より引用

 そこで、仮に機械で脳が持つ機能構造を再現できればその機械に”意識”が宿るのではないかと言う仮説が出てきます。しかしながら機械の意識をどう検出するかは非常に難しい問題です。「哲学的ゾンビ」と言う言葉があるように、自分の意識を知覚することはできても他者の意識を同じように知覚することは出来ません。そこで渡辺正峰氏はその再現された機械脳と自分の脳の半球を完全に接続した時に左半身と右半身を同時に知覚し言語化できれば機械の持つ脳構造にも意識があると言うことを”自らの主観によって”確認することができると言うのです(図4-16:人工意識の機械・脳半球接続テスト)。

渡辺正峰氏は日本経済新聞の記事で人間の意識を機械に移植することを今から20年後を目処に成功を目指していると話しています。

「意識の移植」が問う倫理 脳科学者・渡辺正峰氏(日本経済新聞)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO44778940U9A510C1BC8000?s=5

 この記事の中でも意識を機械へと移植する過程として「人工意識の機械・脳半球接続テスト」について触れられています。


人工脳と機械脳の融合は可能か?

 さて、そんな脳と機械の接続なんてことが本当に可能かどうかはさておいて、先に紹介した人工培養の小さな脳オルガノイドをより成長させるためには感覚系の入力刺激が必要なのかもしれないと言う仮説についてこの脳と機械の接続実験が大きな鍵になるのではないかと思うのです。
 この仮説を検証するために人工眼球や人工鼓膜を作って脳オルガノイドと接続する……のではなく、現在でも使われている人工知能との接続実験がされると面白いなと思ったわけです。現行の人工知能も脳機能の一部しか再現できておらず全脳アーキテクチャの構想はあるものの私たち一般人が触れられるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。
 そこで脳に比べて未熟な人工知能と未熟な脳波を発する脳オルガノイドが接続されることでそれぞれの分野で何かパラダイムシフトが起きるんじゃないかなぁと素人ながらに考えてワクワクしてしまったと言うわけでした。

 当然、私のような素人が思いつくようなことは研究者さんたちには当たり前のことでその問題点や可能性については検討されているのでしょうけど、こういった実験中のものはなかなか私たち一般人の目に触れることはないですし妄想だけが膨らんでいっちゃいますね。

 人工知能や培養脳がドラえもんの如く私たちの友達になるのか、はたまたターミネーターのような敵となるのか、私の生きているうちに何か起きるのでしょうか……?

蛇足:数十年以内に人は事故以外で死ななくなるなんて話もありまして老衰すら克服するなんて言う人もありますね。私もまだ数十年は生きるだけの年齢ですから不死も夢じゃないって感じですね。治療によって不死を手に入れるヒトと生まれながらにして不死である機械の間で「死」の概念を議論する日が来るのかもしれませんな。でも死なないとなると今以上にダラダラとしてしまいそうだなぁ。私は夏休みの宿題を8月末まで残しちゃうタイプなんですよ。


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