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【ピグマリオン効果】教師や上司の期待に生徒や部下の成績が左右される【教育心理学】

 「人は褒められてこそ成長する」と言う人もいますが、学校の教師生徒に対して”期待”を示すとその生徒の成績が向上するという話があります。

 教育心理学ではこれを「ピグマリオン効果」と言います。

 厳しい社会情勢が続く昨今ですが去年と変わらず迎えた新年度。新しく後輩ができたり部下ができたりと言う方も多いのではないでしょうか。

 新しい後輩や部下に物事を教えるのは良いけれど、どうにもうまく教えられている気がしない、自分の教え方が悪いのだろうか…。

 そんな悩みも出てくる頃かもしれませんね。

 さて、そんな時に教える側が「こいつの出来が悪いからだ」なんて思っていてはいつまで経っても後輩や部下は成長できないかもしれないと言うお話を紹介します。

 逆にいえば”適切な期待”をすることで部下や後輩の成長を早めることができるかもしれません。

目次
ピグマリオン効果の実験
逆効果に気をつけよ。「期待」とは何か。
肯定的な助言から期待を感じさせる
ギリシャ神話「ピグマリオン」
「ピグマリオン効果」は「えこひいき」か
ピグマリオン実験の再現性
やる気を削ぐ「ゴーレム効果」


ピグマリオン効果の実験

 教師が生徒に対して「君にならやればできるよ!」と期待を示す生徒はそれに応えるように成績が向上するという「ピグマリオン効果」。

 日本語では「教師期待効果」とも言い、読んで時の如くって感じです。

 ピグマリオン効果がどういうものなのかをもっと具体的に理解するには実際に行われた実験を見るのが早いでしょう。


 1964年、アメリカの心理学者ロバート・ローゼンタールはこの「ピグマリオン効果」を実際にサンフランシスコの小学校での実験によって示しました。

 この時の実験対象者は生徒のみならず教師もみんな被験者です。

 まず初めに生徒たちに「学習能力予想テスト」と名付けた知能テストを行います。

 対して、教師にはこのテストを受けることで「今後数ヶ月のうちに成績が伸びると考えられる生徒」を判別できるテストであることが伝えられます。

 しかし、そのテストの内容は「学習能力予測テスト」とは名ばかりで、実際のところそのテストの成績に特に意味はないものでした。

 それが”無意味なテスト”であることを教師側はもちろん知りません

 そして無意味なテスト(学習能力予想テスト)の結果とは全くの無関係に、無作為に選ばれた生徒の名簿を作り「この子たちは今後数ヶ月で成績が伸びるでしょう」と教師たちに伝えます。

 数ヶ月後、教師たちは名簿に載っていた生徒たちに成績向上を期待し、生徒たちも教師たちに期待されていることを意識することで実際に成績が向上しました。


 これが「教室のピグマリオン(Pygmalion in the classroom)」と言われる実験の内容と結果です。


逆効果に気をつけよ。「期待」とは何か。

 「ピグマリオン効果」について実験の内容を見ると概要は何となくお分かりいただけるかと思います。

 確かに期待されるとその期待に応えよう努力する人も多いですし、その期待に応えることによって教師なり上司なりからはさらに高い評価を得ることができそうです。

 これによって「期待」と「成果」の相乗効果が生まれるような気がします。

 しかし、この「ピグマリオン効果」を単純に教育方法へ取り入れるだけでは逆効果になりかねません

 注意しなければならないのは「”期待”とは何か」というところ。

 「君ならテストで80点取れるはずだ!」と具体的期待度数値化されると、期待に応えられなかった時(テストで60点だった時)や生徒自身にあまり自信がない時には教師からの期待を裏切ってしまうことになり心理的なストレスになりかねません。

 それが原因で成績が下がってしまっては本末転倒というものです。

 確かに「君ならテストで80点取れるはずだ!」という声かけも”期待”ではあるのですが、期待があまりにも具体的すぎる上に期待に対する成果の可否より具体的に出てしまいます

 また理想の押し付けもある種の期待ではありますが、ピグマリオン効果を狙うのであればやめた方が良いでしょう。

 ではピグマリオン効果を引き出すための「期待」とは何なのでしょう。


肯定的な助言から期待を感じさせる

 ”期待”と言うとこれから起こる未来についての言及であるように感じますが、ピグマリオン効果での”期待”はもっと抽象的で、言ってしまえば漠然とした期待です。

 どのようなものが漠然とした期待なのでしょう。

 期待感を意図的に相手に伝えるのであれば”結果に対して肯定的に助言を与える”ことが望ましいと考えられます。

 例えば「集中力が高くなっているように見受けられるので、次のテストではケアレスミスが少なくなっているんじゃないかな?」や「今日の営業ではまだちょっと緊張してたけど、今度の営業の時にはもう少し笑顔が増えると良いね!」などなど、すでに出た結果に対して”期待を込めて”助言します。

 このような助言では”具体的な数値”としての”期待”ではないためテストの点数が悪くなっていたとしても「ケアレスミスは減ったから解けなかった問題を頑張ろう」だとか「最近は緊張も解けてきて表情も柔らかくなってきたね」など具体的な成果とは個別に良かった部分を評価できます。

 このような評価を受けた側(生徒)は「テストの成績は下がってしまったけど、確かにケアレスミスはなくなってきたな。解けなかった問題を解けるようにすれば自然に点数は上がるはずだ。」と前向きに捉えることが可能でしょう。

 ロバート・ローゼンタールによる実験でも教師たちには具体的なテストの点数評価ではなく「期待度の高い生徒の名簿」のみが渡されていることが重要です。

 ”どのような形で成績が上がるのか”は示されていないが、学者が”この子たちは成績が上がりやすい”と言ってる。と言う期待のみ生徒に対する接し方が変わったものと考えられます。


ギリシャ神話「ピグマリオン」

 もう少し詳しくお話しする前に、「ピグマリオンって何?」という素朴な疑問から解決しておきましょう。

 「ピグマリオン効果」の”ピグマリオン”はギリシャ神話「ピュグマリオーン」の逸話からその名前が取られています。表記は「ピュグマリオン」であったり「ピグマリオーン」であったり様々ですがここでは「ピグマリオン」で統一しておきます。

 以下ギリシャ神話「ピグマリオン」の逸話を要約してお話しします。


 ピグマリオン彫刻家であり、とても腕利きでした。彼はある女性が売春しているのを目撃した後、女性を忌み嫌うようになり生涯結婚しないと決心します。

 その代わりとして自らの彫刻家としての腕を振るって象牙で穢れなき女性の像を作ります。

 その象牙の女性像象牙でできているとは思えぬほどの出来となり、ピグマリオンは次第にその象牙の女性像へ恋をしてしまいます。

 象牙の象に服を着せ指輪をはめたりイヤリングをつけたり小鳥貝殻贈り物まで与えました。

 挙句には寝椅子に寝かせてまで与え「これは自分の妻である」とまで言い出します。

 そんな最中、愛と美の女神であるアフロディテの祭日がやってきます。

 ピグマリオンアフロディテに「どうか私の妻としてあの象牙の女性をください」と願います。

 帰宅したピグマリオンは寝椅子に寝かせた象牙の女性像にキスをするとその唇が暖かく肌が柔らかいことに気がつきます。

 象牙であったはずの女性像は本物の人間の女性となっており、その後二人は結婚して子宝に恵まれるのでした。

 めでたし、めでたし。


 と言うのがギリシャ神話「ピグマリオン」です。

 ピグマリオン象牙の女性像に対して「こんな女性がいたら良いのに」と期待していたところ、その象牙の像本当に人間の女性へと”変身”してしまうと言う物語です。

 心からの期待が対象を変化させる。

 こうした期待変身といった物語の構成から教師による期待生徒の変身が「ピグマリオン効果」と名付けられたのです。

 ピグマリオンの場合には象牙の女性像が人間に変身したと言うことが分かりやすいですが、ピグマリオン自身も「生涯結婚しない」と言う決意を忘れてか象牙の象であった女性と結婚するという心変わりをしています。

 教育心理学における「ピグマリオン効果」でも教師の期待に応える形で生徒のやる気が変化しているように見えますが、対して教師たちも「この子たちは成績が伸びるんだ」と思い込むことで教師側の態度や心境も変化していることが考えられます。


「ピグマリオン効果」は「えこひいき」か

 「ピグマリオン効果」において批判的な部分のひとつが「それってただの”えこひいき(依怙贔屓)”なんじゃないの?」という問題。

 「依怙」とは「どちらか一方の肩を持つこと」という意味があります。

 つまるところ「成績が上がるって言われた生徒に対して教師が重点的に教えただけじゃないの?」という批判です。

 ごもっともな意見ですよね。というよりその可能性は大いにあるでしょう。

 しかしながら、逆に言えばちゃんと期待を込めて教えることができれば成績はやはり上がるということ。

 学校教育において”えこひいき”は良いことではありませんが、生徒それぞれの持つ可能性教師側が捨ててしまってはいけません

 各々の生徒に対して適切な”期待”をすることで教師側生徒側ピグマリオンになれるのだと私は思います。


ピグマリオン実験の再現性

 科学における”再現性”は非常に重要です。

 たびたび当ブログにも登場する”再現性”とは、同じ条件で実験を行えば常に同じ結果が得られるという科学的実験において欠かせないもの。

 ロバート・ローゼンタールによる「教室のピグマリオン」も再実験が行われたようですが、その再現性が低いという結果になっているようです。

 この点において「ピグマリオン効果」は再現性のないものとして扱われることがありますが、とは言え「誰かに期待してそれに応えてくれる」というのは悪いことではないですよね。

 心理学者教育学者が「ピグマリオン効果」について議論をしてくれるのはとりあえず置いておいて、一般論として他者への期待と成長という意味での「ピグマリオン効果」を利用する分には全然ありだと思います。

 むしろ本当に注意しなければならないのは次に紹介する「ゴーレム効果」です。


やる気を削ぐ「ゴーレム効果」

 ピグマリオン効果には対となる心理効果があり、生徒部下に対して「失望の念」を出してしまったり「期待度が低い」と成績が落ちるという「ゴーレム効果」と呼ばれるものがあります。

 これも「上司を見返すために頑張るぞ!今に見てろ!」と逆に張り切る方もいるかもしれませんね。

 受け取り方人それぞれかもしれませんが、多くの人は自分に対する期待度低いと感じると本来出せるであろうパフォーマンスがうまく出せなかったりします。

 加えて、教師上司からの評価や期待が低いとなると周囲からの協力うまく得られないということも考えられます。

 「こいつに協力してもどうせダメだしなぁ」と思われてしまっては簡単に出来るであろうことも難しくなってしまうかもしれません。


 ピグマリオン効果では複数の教師生徒家庭での保護者などを巻き込む形で周囲の大人全員から期待生徒に向けられるわけですから勉強の協力体勢による効果も絶大でしょう。

 現に私も高校時代の学力調査で学年3位という好成績を出してから周囲の目と自分自身のモチベーションが上がったのを感じた覚えがあります。(テストの成績はいつも平均よりは上だけど特別よくはない程度)

 私は大学時代に中学高校の教員免許を取得したのですが、その際に「教育心理学」の講義でこの「ピグマリオン効果」のお話しがありました。

 その時にも「”ピグマリオン効果”自体の再現性がどうあれ、教師の生徒に対する心持ちは大いに影響するから気をつけなさい」と言われたのを記憶しています。

 教えられる立場としても、教える立場としても、相手に対する敬意(リスペクト)が大事なんです。そんなことを教えてくれる「ピグマリオン効果」でした。


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