脱原発なるか!?次世代型火力発電「超臨界CO2サイクル火力発電システム」に期待

 私たちの生活が便利で豊かになっていくにつれ環境問題が大きく取り沙汰されて久しい昨今です。特によく聞く問題はCO2(二酸化炭素)の排出による地球温暖化問題ですね。CO2(二酸化炭素)自体が地球温暖化へ直接的にどの程度影響を与えているかや、そもそも温暖化しているのか否かなどの懐疑的な諸意見もありますが、いずれにしても地球環境を今まで通りの(私たちにとって)住み良い状態に保とうとする取組は必要であると私は思います。

 今回はそんなCO2(二酸化炭素)による環境問題を”火力発電”が解決してくれるかもしれない超臨界CO2サイクル火力発電システム」についてお話をします。火力発電って燃料を燃やすのだからCO2(二酸化炭素)出しまくりやん!と言う常識が覆るかもしれません。

目次
・火力発電に頼らざるを得ない私たちエネルギーのロスと排ガスが多い火力発電超臨界CO2サイクル火力発電システム高圧CO2を用いた原油増進回収法(EOR)脱原発なるか?次世代発電の可能性

火力発電に頼らざるを得ない私たち

 今現在のような電力に頼った社会に暮らす私たちにとってCO2(二酸化炭素)の排出を抑えると言うのはそう簡単なものではありません。なぜならば、日本においてだけでも発電量のおよそ70%以上が火力発電によるもので、火を使うと言うことは必然的にCO2(二酸化炭素)を排出してしまうと言うことに直結します。

 そこでCO2(二酸化炭素)の排出量が極端に少ない発電方法として原子力発電所が挙げられますが、この原発の発電量は全体のわずか8%程度。さらに原発にもその安全性や放射性廃棄物の処理問題などと言った諸問題が山積みで安易に原発をたくさん建設するわけにも行きません。ちなみに風力発電太陽光発電などのいわゆる再生可能エネルギーと言われる発電方法も全体の7%程あり、実は発電量比率だけでいえば原発とさほど変わらないのですが、再生可能エネルギーの類は安定供給の難しさ敷地面積に対する発電量の効率の悪さ、また建設にかかるエネルギー量と生産される電力エネルギー効率の悪さなどと言った問題を抱えます。

 さてはて、発電量の70%以上が火力発電に頼っている日本CO2(二酸化炭素)削減のためだけに原発に頼ると言うことも難しいと言った社会情勢の中、日本をはじめとする世界中の企業や科学者たちは大きな電力を生み出している火力発電のCO2(二酸化炭素)排出量をどうにか減らせないかと日夜研究開発に取り組んできてくれました。

 その結果、今現在の最先端技術でCO2の大気放出をほぼ100%削減できる火力発電システムの実用化まであと一歩まで来ているのが「超臨界CO2サイクル火力発電システム」です。


エネルギーのロスと排ガスが多い火力発電

 火力発電は読んで字の如く”何かを燃やした熱エネルギーを電力に変える”発電方法で、多くの場合には石炭や石油を燃やして水を沸かし、そこで出た水蒸気の圧力でタービンを回して発電する方式をとっています。水蒸気の圧力でタービンを回すと言うのは火力発電に限らず原子力発電でもほぼ同様のシステムで、つまり水蒸気を作り出すのに何かを燃やす原子力を使うかと言う違いに過ぎません。今回は火力発電についてなので、火力発電の方法を簡単に図にして見てみましょう。

 上の図は非常に簡略化したものなので厳密には実際の火力発電所のシステムとは異なる部分(省略した部分)が多々ありますが概ねこの通りです。
 まずボイラーで火を焚くための燃料を燃やし、その熱エネルギーで水を沸騰させて水蒸気を生み出します。水は液体から気体へと変わると体積が1700倍にもなるので圧力鍋のような密閉された空間では水蒸気の圧力が高まり、その圧力を噴出することによってタービン(プロペラみたいなもの)を回して発電機を動かします。発電によって使われた水蒸気は復水器と言う機械で冷やされてまた液体の水に戻り再度ボイラーに戻されて水蒸気にされ……と発電所の中をぐるぐると廻ります。この時、タービンを回すための水蒸気は作動流体と呼ばれ、加えて超高温超高圧液体と気体の境目のないの”臨界状態”となっています。

 水の臨界点圧力22.1MPa(メガパスカル)、温度374℃であり、日本にある世界最先端で最もエネルギー効率の良い火力発電所(磯子波力発電所)では圧力24.1MPa以上かつ温度593℃以上の「超々臨界圧」と呼ばれる蒸気圧でタービンを回しています。お家の料理で使っている圧力鍋での料理中の圧力は0.25MPa、温度は130°c弱程度ですからその凄さは一目瞭然ですね。

 さて、この過程でCO2が排出されるのはまさにボイラー内での燃焼の過程です。液体である水を加熱し気体である水蒸気に変え、さらに臨界点に達するには非常に大きなエネルギーを必要とします。

 液体を気体に変える過程に必要とする大きなエネルギーを減らすことができれば火力燃料の消費も抑えられ、それに伴ってCO2の排出も抑えることができますよね。さらに、燃焼によって排出されるCO2を回収して大気中に放出する量を可能な限り少なくすることが大切です。

 現在の火力発電所のシステムでもCO2を回収して可能な限り大気中へ放出しない形で運用されていてそれだけでもすごい技術なのですが、火力発電の過程ではCO2だけでなく「硫黄酸化合物」や「窒素酸化物」など様々な物質が排出されてしまうため、それぞれの物質を分離させて回収するにはそれ相応のコストがかかってきます。CO2のみを回収するにしても他の物質に吸着させて分離する方法が主で、火力発電所には発電システムとは個別に排ガス処理の施設が必要不可欠でした。

 これらのような火力発電の欠点とも言える問題を解決してくれる新しい形の火力発電システムが今回の本題である「超臨界CO2サイクル火力発電システム」なのです。


超臨界CO2サイクル火力発電システム

■CO2を作動流体にする

 従来の火力発電では燃料を燃やす時に生じた熱エネルギーを用いて作動流体を作り出す(液体の水を気体である水蒸気に変える)のに大きなエネルギーを使ってきました。これは作動流体に”液相(水)”の状態があることが大きな原因です。すなわち、せっかく気体にした物質(水)を一度冷やして液体に戻してしまうため再度大きなエネルギーでまた気体に、そして臨界状態へしてやらねばならなかったわけです。

 対して「超臨界CO2サイクル火力発電システム」ではCO2自体を作動流体として使います。水を発電機の作動流体として使うために臨界状態へするのに必要な圧力と温度は最低でも圧力22.1MPa(メガパスカル)、温度374℃でしたが、CO2の臨界点は圧力7.4MPa、温度31.1℃と水に比べれば超低圧!超低温!31.1℃なんて真夏の外気温程度ですよ。

 これは元々CO2が常温状態で気体であるため水に比べて臨界点に他するのが容易なんだそうです。それでも巨大な発電タービンを回すためには超高圧超高温状態が必要になるのは変わりないんですけどね。

 では水の臨界状態を作動流体としていた従来の火力発電に対し、超臨界CO2サイクル火力発電システムはどのような構造でCO2を作動流体にしているのか。そのシステムを図で見てみましょう。

■図解「超臨界CO2サイクル火力発電システム

 まず前提として、この発電システム内はCO2が満たされているような状態にあります。

CO2はポンプで30MPaまで加圧されます

②再熱交換器を通ってある程度まで温度を上昇させます。

③高圧のCO2は燃焼機に入り、その燃焼機には酸素と燃料が一緒に入れられます。燃料は酸素を使って燃焼し、CO2の温度を1150°cまで高めてCO2を臨界状態にします。

超高圧超高温の臨界状態となったCO2は燃焼機内の燃焼によって生じた水蒸気と一緒にタービンに吹きつけられタービンを回し発電機を動かします。

⑤発電に使われたCO2水蒸気は再熱交換器を通ってある程度冷やされた後、気水分離器を通り温度が下げられ水とCO2に分離され水はそのまま排出されます。

⑥分離されたCO2は再度ポンプに戻り30MPaに加圧されるのですが、燃料の燃焼によって生じるのは水蒸気だけでなくCO2を生じさせるのでポンプ内に戻ってくるCO2の量は増えています。

⑦しかしながら、そこで増えたCO2はポンプによって高圧された状態でほぼ100%回収することができます。

 このような流れが超臨界CO2サイクル火力発電システムです。従来の火力発電システムで課題であった水の超臨界状態化にかかるエネルギーCO2を用いることで比較的少なくなり、燃焼によって生じる排ガスは”水蒸気”と”CO2”のみなので分離が非常に容易です(水蒸気は冷やせば液体の水になる)。

 さらに、増加したCO2ポンプを経由してそのまま回収・巡回できるため独立した排ガスシステムを必要としないのです。これによって排ガスシステムにかかる費用や設備が大幅に抑えられ施設自体の小型化にまで成功しています。

システム開発の課題

 こんなにすごい超臨界CO2サイクル火力発電システムですが、開発までにはやはり大きなハードルがありました。

課題①:高温材料技術及び遮熱コーティング技術
課題②:高性能冷却技術
課題③:CO2雰囲気中(CO2の充満した空間内)での天然ガスの燃焼技術
課題④:30MPaでの高圧燃焼技術
※東芝−超臨界CO2 サイクル発電システムより引用(PDFが開きます)

 これらの課題については既存のガスタービンの技術を用いることでほぼほぼクリアできているようで、2013年にはすでに試験段階での燃焼試験に成功済みです。2018年にはパイロットプラント(実用化直前の試験施設)での燃焼試験をクリアしていて商用ベースでの実用化までもう目前といった感じでしょうか。

 でもでも、回収されているとはいえ一番の問題とされるCO2が実質的には増えてるじゃんって思いませんか?しかし、ここで回収されたCO2が実はとても大切で、高圧状態のCO2をほぼ100%回収できると言うことがとても実用的なのです。


高圧CO2を用いた原油増進回収法(EOR)

 超臨界CO2サイクル火力発電システムでも燃料を必要とすることには変わりまりません。ここで必要となる燃料は石炭ガスや天然ガスなどとされていますが、火力発電において欠かせない燃料といえば石油でしょう。

 この火力発電に欠かせない燃料である原油の採掘に「高圧CO2」が使われるのです。

 石油からもLPGと言う液化石油ガスが取れるので超臨界CO2サイクル火力発電システムでの燃焼に使われるのかは正確には分かりませんが、いずれにしても石油の採掘は発電において必要不可欠なものです。

 「あと○十年で石油が枯渇する」と言われて久しい昨今、石油採掘技術の発展により「あと○十年……」が先延ばしにはなっているもののいつかは枯渇してしまうもの。今ある油田から可能な限り無駄なく石油を採掘できるに越したことはありません。

 そんな石油採掘に火力発電所で作られた「高圧CO2」と言う副産物が役立つのですから驚きです。では、どのように「高圧CO2」を使って石油を採取するのでしょうか。できるだけ地中から石油を絞り出すためにの採取方法には3段階の方法があるのでまずはそれを確認しましょう。

  まず第一段階の一次採取法は「自噴油法」と「人工採油法」です。コメディー映画や漫画などで地面を掘ったらピューっと石油が吹き出してきて億万長者だ!なんてシーンがありますが、これが「自噴油法」に当たります。さらにピューっと吹き出す程でないにしても採油ポンプを地中に刺して石油を汲み上げる「人工採油法」を用いることで比較的簡単に採油することができます。これらの方法では地中にある原油のうち10〜25%ほどしか採油することができません。

 そこで第二段階の二次採取法である「水攻法」と「油層圧維持法」です。ピューっと吹き出なくなった油田に水を注入することで原油を絞り出す方法が「水攻法」で、最初から水を注入して原油のある地層の圧力を維持し続けようとするのが「油層圧維持法」となります。しかしながら、この方法を用いてもさらに10〜20%程度しか採油することができません。

 そして第三段階の三次採取法である「熱攻法」「ケミカル攻法」「ガス圧入法」などです。原油はドロドロしているので水蒸気や熱水を注入して粘度を下げ、流れやすい状態にして採油する方法が「熱攻法」。「ケミカル攻法」は化学薬品を注入して原油と反応させ、こちらも粘土を下げて流れやすくした原油を採油します。そして高圧CO2が活用されるのが「ガス圧入法」です。

 「ガス圧入法」では天然ガスなどの性質により原油に溶けるか溶けないかでその採取方法が異なり、溶ける場合にはケミカル攻法のように粘土を下げて流動性を高める役割を、溶けない場合には油層圧維持法のように油層から噴出する圧力を維持する役割をします。こうした「ガス圧入法」で高圧CO2を圧入すると言うわけです。これらの三次採取法を用いれば55〜80%もの原油を採取することが可能となり油層から可能ながぎり無駄なく原油を採取することができます。

 これまでにも「炭酸ガス(CO2)」を用いた圧入攻法は用いられてきましたが、圧入するための「炭酸ガス(CO2)」を自然の炭酸ガス田から採取して使っていました。しかし、超臨界CO2サイクル火力発電システムによって副産物として得られる高圧CO2を用いることで新たなガス田の開拓やガスの採取施設などを必要とせず得られコストも抑えられ、また収集されたCO2を大気に放出せず地中に貯蓄しながら原油まで取れちゃうまさに一石二鳥のシステムなのです。


脱原発なるか?次世代発電の可能性

 2020年8月現在、日本で集計されている全体の発電量は856.1億 kWh で、このうち電気事業車による発電量はは56206億 kWhでした。

 基本的には電気事業者の発電による電力で私たちの生活は支えられていますが、そこで生み出される電力の発電方法の内訳は以下になります。

経済産業省資源エネルギー庁 電力調査統計 2020年度 結果概要 より抜粋

 当記事の冒頭でも紹介しました通り、70%以上の電力が火力発電によって生み出されています。そして火力発電は酸素を用いた燃焼をエネルギー源にしている以上、CO2の排出を完全になくすことはできません。つまり、私たちの普段使っている電力の70%以上はCO2の排出を伴っているのです。

 ですので今回紹介した高圧CO2を直接採取する手法の他にほとんどの火力発電所で排ガスの処理装置を使って物質に吸着させるなどの方法でCO2をできる限り大気中に放出しないようにしています火力発電所といえば長い煙突からモクモクと白い煙が出ているのが印象的ですが、あれはほとんどが水蒸気です。

 今回紹介したのは火力発電に関する次世代型の発電システムでしたが、上記の表では「新エネルギー」に位置付けられる太陽光発電風力発電をはじめとする再生可能エネルギーには大きな期待が寄せられていますね。小型のものでは皮膚に貼り付けて耐熱を利用して発電したり、靴に取り付けて歩く振動で発電したりといった技術も多く研究開発されており、もしそれらが大きな電力を生み出すことができるようになれば発電所自体が不必要な時代が来るのかもしれません。

 とはいえそれらはまだまだ実用レベルではないので、商用ベースでの大型の発電施設は今後数十年は必要でしょう。何かと取り立たされる原子力発電所にもメリットはあり、比較的安定的に燃料(ウラン)の確保が可能な上にCO2を排出せず発電コストも安いため私たちの電気料金にも直結してきます。そしてまだまだ安全性や発電効率について発展の余地があり、最先端では比較的安全とされる核融合炉を用いた次世代型の原子炉発電の建設が進みつつあります。

 安全で環境にも優しいエネルギーの生産への取組は着々と進んでいるので、今すぐにとは行かないかもしれませんが誰もが納得できるエネルギーを世界中の誰もが享受できるような世の中になって欲しいですね。

 原発だけでなく、火力にしても水力にしても発電所はとても危険な場所だと思います。そんな場所で日夜電気を送り続けてくれている人々に心から感謝しながら新しい技術にワクワクして、そして同時に私たちは日常生活において日々のエネルギーの無駄遣いを減らす取組をせねばなりませんね。

 今回紹介した超臨界CO2サイクル火力発電システムも日本の企業である東芝(TOSHIBA)がその研究開発に多大に関わっています(主にタービンや燃焼炉の開発)し、核融合炉の研究開発には三菱重工業量子科学技術研究開発機構など様々な日本企業や団体が関わっています。

 日本での生活は世界的に見て比較的豊でテクノロジーの恩恵を多く受けているので、日本の企業や団体が次世代の発電システムや環境への取組に大きく貢献してくれていることは本当に有り難く思います。


参考・参照記事
CO₂(二酸化炭素)は回収して 大気への放出を防ごう(TOSHIBA)
CO2回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性(経済産業省:資源エネルギー庁)※PDFが開きます
次世代⽕⼒発電に係る技術ロードマップ(経済産業省)※PDFが開きます
電力調査統計 結果概要 【2020年5月分】(経済産業省:資源エネルギー庁)※PDFが開きます
発電の仕組み>火力発電(電気事業連合会)
水蒸気の10倍のエネルギーで発電する「超臨界CO2タービン」技術:米研究者が開発(WIRED)
東芝の超臨界CO2サイクル発電、米国のEOR需要増が追い風(電気新聞デジタル)
火力 > 研究開発(超臨界CO2サイクル発電システム)(TOSHIBA)
超臨界CO2サイクル火力発電システムのパイロットプラント向け燃焼器初着火(TOSHIBA)
超臨界CO2 サイクル発電システム – 東芝(TOSHIBA)※PDFが開きます
原油増進回収法(EOR)とは何か? 既存の原油を効率的に回収するための技術動向(ビジネス+IT)
二酸化炭素排出抑制に貢献し、石油回収率を高める「炭酸ガス(CO2)圧入攻法」(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)


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